2017/09/17

『終わりの感覚』/ジュリアン・バーンズ

4105900994 終わりの感覚 (新潮クレスト・ブックス)
ジュリアン バーンズ Julian Barnes
新潮社  2012-12-01

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 男はいつも「やり直せる」と思っている。頭では、口では、「もう年を取ったから」と言っていても、だ。主人公のトニーはその男の滑稽なセンチメンタルを冷静に存分に発揮してくれるが、その結果教えてくれるのは「取り返しがつかないものは取り返しがつかず、取り返しがつかないことに気づくのも取り返しがつかなくなってからだ」という、あまりにも「哲学的に自明」の事柄だ。

 あまり若いうちに読んでも得るものの少ない小説だと思う。この歳になっても文学に触れる意義があることを、この歳だから触れることで意義を得られる文学があることを、バーンズが知らしめてくれた。

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『フクシマ6年後 消されゆく被害――歪められたチェルノブイリ・データ』/日野行介 尾松亮

440924115X フクシマ6年後 消されゆく被害――歪められたチェルノブイリ・データ
日野行介 尾松亮
人文書院  2017-02-20


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 筆者が問いかけると、 「偏りも何も僕らは中立機関でも何でもない。僕らが支援をやるに当たって知りたいと思った情報、政府の施策推進に当たっ て参考になる情報を得るための出張だ。出張報告なんてすべて公表するルールはない」 菅原氏は新年7月、事務次官に昇任。 ついに位人臣を極めた。 これまで紹介したとおり、支援法は悲惨な末路をたどった。


 文字通り「愕然とする」記載だった。森友疑惑の渦中の佐川宣寿氏の国税庁長官栄転と同じことが、東日本大震災の支援活動の中でも起きていたのだ。それも国の負担を減らすための改悪の方向で。アベノミクスが続いてほしい財界が安倍政権が倒れないように佐川氏を支援し、同じく政権が倒れてほしくない財界と原子力技術者の国外流出の防止を建前に振り回す財界が菅原氏を支援する。

 国際科学技術センター(ISTC)が核技術者・関係者の立場の保護と、核技術者の非核保有国への流出を防ぐため、原子力利用が下火にならないように、フクシマの被害を過小評価するキャンペーンを張った。政府はそれに乗った。東芝がメモリではなく原発事業を守らなければいけないのもたぶんここに通底するのだろう。

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『世界を破綻させた経済学者たち:許されざる七つの大罪』/ジェフ マドリック

415209558X 世界を破綻させた経済学者たち:許されざる七つの大罪
ジェフ マドリック Jeff Madrick
早川書房  2015-08-21


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フリードマンによれば、経済モデル - フリードマンの最もよく引用される業績を例に挙げれば、GDP とマネーサプライの関係に関するモデルなど - の土台をなす仮定は、論証される必要もないし、常識にかなうものである必要もない。別の言い方をすれば、マネーサプライがどのような理由でGDPに影響を及ばすかを明らかにする必要はないとされる。 マネーサプライの増減がGDPの変動と緊密に結びついていて、 一方の変動から他方の変動を予測できることを示せれば、それで十分だというのである。

ここが自分にとってずば抜けて大きな課題だった。このフリードマンの言い分は、そっくりそのままビッグデータに当てはまる。古くはデータウェアハウスのマーケティングにも使われた言い分だった。機械学習はパターン-相関関係を見つけ出すだけで因果関係は解説しない。フリードマンはそれでよしとして、世界を破綻させたということになる。機械学習は確かに結果への直線距離だけれど、それで捨象したもののー正確に言うと捨象したものを見つけるために従来行ってきた行為の中にー”間違わないために”必要だった要素がないのだろうか。

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2017/08/19

『みみずくは黄昏に飛びたつ―川上未映子訊く/村上春樹語る―』/川上未映子 村上春樹

B071D3TBYT みみずくは黄昏に飛びたつ―川上未映子訊く/村上春樹語る―
川上未映子 村上春樹
新潮社  2017-04-27


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  • 「無意識」と「意識」という言葉の使い方が、混乱しているというか揺れているというか、そういう場面がいくつかあって、そこがいちばん印象に残った。p159の「そういう無意識中心の世界で、人々は個人ではなくむしろ集合的に判断を行って生きていた」のところなんかは、『道徳性の起源』で、社会的な判断は人間に特有ではなく、また、「知性」によってもたらされるものではなくある種の動物(たち)には元来備わっている「本能」だ、という説を知った直後だったので、無意識中心の世界で「善き」判断が行われるのが「集合的」に行われる、というところは詳しく考えたいなと思った。
  • 近代的自我を取り扱うのに興味がない、というのは、「実は僕はほんとはこんな悪い人間なんです」みたいなのを仰々しく開陳することに何の意味もない、みたいに解釈した。
  • p248の問答は、かなり苦しく感じた。たまたま、というのは無理があるんじゃないかなあ。それに、ここの「無意識」がかなり象徴的。
  • 神話や歴史の重みそれ自体が無効になってないか、という問いかけは凄いなあと思った。そしてそれが無効になっているのではと感じてしまう状況になっているのは、言葉を使う側になったときの言葉を使う姿勢にそれぞれみんな課題があるのだと思った。

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2017/08/16

『道徳性の起源: ボノボが教えてくれること』/フランス ドゥ・ヴァール

4314011254 道徳性の起源: ボノボが教えてくれること
フランス ドゥ・ヴァール Frans de Waal
紀伊國屋書店  2014-11-28


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乾さんの(酔っぱらいながらの)オススメ課題図書、盆休みを利用して読了。

  • 教条主義との戦い、という印象がいちばん強かった。神とどう向き合うのか、という課題。そういう意味で、9条を巡る話は、教条主義に陥るか否か、ということなのかもなあと思った。9条を改憲したいというのは、どちらの意味でも条文に対して教条主義になっているのではないかと。70年の歴史で培ってきた知恵を理解できないということではないかと。
  • 信仰の問題。西洋社会では無信仰は人格を疑われる、という知識はあって、その事実の奥深さを改めて感じた。宗教が道徳をヒトにもたらすのではないとしながらも、人間が宗教を必要とした理由は感じられるようになっていて、ここのところの整理が非常に難しい。私は平均的現代日本人的な無宗教だけれども、平均的な仏教感みたいなものは持ち合わせているとは思う。それでも西洋社会から見ればほぼ「無信仰」みたいなものだと思うので、この国でも道徳性は存在するということは、宗教が道徳をヒトにもたらすのではないという証拠だったりして。一方で、日本でも右派が執拗に「神道」を日本の中心宗教に据えたがるその心性が非常によく理解できるようになった。結局、神に値するところに天皇を、というところと、その上で自在に利用したい、という感じが否応なくする。
  • レヴィ=ストロースをこき下ろしていた箇所。レヴィ=ストロースの新しかったのは啓蒙主義の批判で、文明間の(価値の)相対化だったと思うので、あのこき下ろし方はちょっとずれているかなと感じたけれど、フランス ドゥ・ヴァールのほうが、ヒトと動物までも相対化したという点でより突き詰めていると思った。そこまで考えないと、自分の中に眠る「人間」としての特権意識を明らかにできないなと思った。

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