2017/12/31

『月曜日の友達 1』阿部 共実

4091896219 月曜日の友達 1 (ビッグコミックス)
阿部 共実
小学館  2017-08-30

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数年前から薄々、「文学は最早小説じゃなくて漫画じゃなかろうか」と思っていて、それを硬派というのかやせ我慢というのかで押し殺して小説を選択してきてたのだけど、村上春樹が『海辺のカフカ』や『騎士団長殺し』で試行したように、現代(人)にとって「まとまった時間のなさ」というのはやっぱり大問題と思っていて、いつでもどこでも読めるようにという方向で時間を確保する手段として電子書籍は普及したけれど、それも過去の可処分時間を補うには至っていないと思うし、そうなると「早く」読み進めることのできる「漫画」のほうが、優れた物語媒体になるんじゃないだろうかと体感的に思う訳です。

そしてとうとう今年も末、「そういうベクトルで行動したほうがいいんじゃないか」と思っているところに年末特有の怒涛の「今年のベスト10」形式のプッシュリストがネットに出回る中、漫画も一際目に入ったのでこれはそっちに舵を切ろうと決心して一冊目に選択したのがこれ。

正直言って、僕は水谷のように、「目の前のその人のことを、全然何も知らない。もっと知りたい。」という自覚を持ったことが今までたぶん一度もないと思う。全然何も知らない、わからないことは当たり前で、それまでその人と過ごした時間や交わした会話で感じたものだけが自分にとってのその人の全部なんだと疑わずに生きてきたタイプだ。それもぼんやりそうだとしているだけで意識している訳ではない。どちらかというと月野のようにヒーローになりたいタイプだった。だけど、自分のことをわかってもらえない、だから自分の居場所がここにもそこにもない、という感覚はかろうじて持っていたし持っている。それを誰かにわかってもらおうと努力したことはほとんどない。だから、水谷と月野が心を開いていくその過程は胸に刺さってくるものはあるけれど、その感覚は他の読者が感じるそれよりもずいぶんと薄いものなんだろうなあと思ってがっくりくることが読んでいて何度かあった。

後、小説と漫画で言うと、漫画は1冊じゃたいてい終わらないんだよね…そこが問題。

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2017/12/23

『不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか』/鴻上尚史

4062884518 不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか (講談社現代新書)
鴻上 尚史
講談社  2017-11-15

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 「命令する側」と「命令される側」をごっちゃにしてはいけない。これに関する思考を押し広げていくと、雇用と非雇用の峻別というか、経営者と従業員は違うというか、そういう枠組みに行き当たる。日本式経営から見ると非情とか冷酷とか言われた欧米式経営も、基づいているののが「命令する側」と「命令される側」を明確にすることで責任の所在を明確にする、という点だと改めて認識すると腑に落ちる。日本はどうして一心同体思考なんだろう。その理由にも著者はきちんと思考を伸ばしている。

 政治家が「秘書が勝手にやりました」というように、日本はとにかく「あいつが自発的にやった」という言い訳が非常に容易に通る国だ。特攻隊も志願だ志願だと言い張って、志願しなかった人間には「なんで志願しないんだ」と詰め寄って志願させる。なんだこの無茶苦茶な世界は、と思うけれど、結局、日本人は念じることしかできないのかなあと思う。気持ちを込めればなんとかなる、というか、気持ちを込めてもなんとかならない出来事が多すぎて、その裏返しでせめて気持ちだけはこめよう、みたいな心性が育ってしまったのかな、と。そうして2017年はとうとう「忖度」という言葉が流行語になった。忖度したほうが、言い訳できない仕組みにしてしまったほうがいっそ状況は良くなるのではないかと思う。

 とにかく絶対に読まないといけない一冊。

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2017/10/21

『ユダヤ教(FOR BEGINEERSシリーズ)」/チャーレス スズラックマン

4768401007 ユダヤ教 (FOR BEGINNERSシリーズ)
チャーレス スズラックマン 中道 久純
現代書館  2006-06-01


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数年前からのイスラム教が関わるニュースや、個人的にキリスト教に触れる機会があって、宗教について考える時間が多くなっていた中、ふと「何も知らない」と気づいたのがユダヤ教。そこでFor Beginnersを見つけて読んでみた。

  • 最も印象に残ったのは、柔軟性。「生死に関わる可能性が少しでもあるならば、シャバットの法を犯すことは義務なのです」。この生き延びることを最優先する姿勢がユダヤ教の性格のように映った。安息日があるのも、生命力は無限に放出し続けられないから、一定のサイクルで休息を(強制的に)とる必要があることを理解していたかのよう。同じ”悪”の本性を想定しても、それを極限までの鍛錬で超克するか、別の方法で超克するかという違いが興味深かった。
  • 書き記されたトーラと口伝のトーラ。この教えの運用の仕組みがすごくよくできたものだなと感じた。置かれた時代や状況に応じて、書き記されたトーラに対する解釈としての口伝のトーラを揺り動かしていくところ。
  • ブントの発生起源と衰退のところが今一つ理解できなかった。

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2017/10/01

『学生を戦地へ送るには 田辺元「悪魔の京大講義」を読む』/佐藤優

4104752134 学生を戦地へ送るには: 田辺元「悪魔の京大講義」を読む
佐藤 優
新潮社  2017-07-31


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  • 明治維新の評価について。どう考えてもテロじゃないか、とか、なぜ尊王で攘夷で、簡単に開国に転向したのか、とか、素朴過ぎると自分自身で思っていた疑問にひとつの明快な解を得ることができた。中途半端だったがブルジョア革命だったという見方。
  • 全体主義と普遍主義の理解。個人をアトム的に見るかどうか。新自由主義は普遍主義と通底している。都市部は新自由主義に簡単に相容れる。新自由主義は格差を必ず生み、絶対貧困は国家の保障を求めるところからファシズムを受け入れる。
  • 沢山の主義・イデオロギーが解説されるが、救いのないのはどの主義・イデオロギーも選んでも未来が見えないと感じたこと。どの主義・イデオロギーも今の日本の政治団体に当てはめられる対象があって、そこでふと思ったのは今回の選挙は正に消去法というか、こういった状況にあっても何かを選ぶということこそが政治に参加するということなのだということ。
  • 忘れずに書くと、田辺元というのは本当に最低最悪の日本人だと思う。安全地帯からモノを言う人間が嫌いだというのは私は学生時代から変わらないし、その感覚に更に自信を持った。
  • 一回くらいじゃ消化できない。もう一度読む。

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2017/09/17

『終わりの感覚』/ジュリアン・バーンズ

4105900994 終わりの感覚 (新潮クレスト・ブックス)
ジュリアン バーンズ Julian Barnes
新潮社  2012-12-01

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 男はいつも「やり直せる」と思っている。頭では、口では、「もう年を取ったから」と言っていても、だ。主人公のトニーはその男の滑稽なセンチメンタルを冷静に存分に発揮してくれるが、その結果教えてくれるのは「取り返しがつかないものは取り返しがつかず、取り返しがつかないことに気づくのも取り返しがつかなくなってからだ」という、あまりにも「哲学的に自明」の事柄だ。

 あまり若いうちに読んでも得るものの少ない小説だと思う。この歳になっても文学に触れる意義があることを、この歳だから触れることで意義を得られる文学があることを、バーンズが知らしめてくれた。

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