2014/08/15

『ITビジネスの原理』/尾原和啓

4140816244 ITビジネスの原理
尾原 和啓
NHK出版  2014-01-28


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 「そしてインターネットは、人を幸せにする装置へ」-こんなことを書く本というのはだいたい著者が関わる何かへの利益誘導を目的としたもの。それもタイトルとは無関係な。そういう意味では本著はその典型的なもので、「ITビジネスの原理」という、ITビジネスの構造と利益源泉が読めば分かるような期待を抱かせておいて、その実、内容は著者が転職した楽天が、amazonとは違うショッピング体験を追求してるんだよ、楽天のショッピング体験のほうが優れているといえるのはこういうことを考えてるからなんだよ、と、「ハイコンテクスト」で洗脳しようとして終わる、という内容です。しかも、途中にgoogle glassを噛ませて、ちょっと間違いかもと疑わせる囮を仕掛けておいて視点をずらすという念の入れよう。IT関係者にとっては読む必要はあまりないと思います。

 特に問題があると思った2点:

  • クラウドソーシングに関して、ネット時代は時間が細切れになるので、その細切れな時間を有効活用しなければいけない、有効活用できるクラウドソーシングが有用だというロジックは分かるのですが、議事録の例えで優れた仕事をやる人の単価は上がっていくとありますが実際はそうはならない。なぜなら、その優れた仕事をやるクラウドソーシング上のマーケットも当然存在するからで、その人はそのマーケットの価格と戦わなければならないから。今のところ、クラウドソーシングマーケットというのは工数単価に落とし込めるようになったワークがたどり着くところ。
  • グローバル企業は英語よりも非言語化を志向しているので、言語を介さないほうが、ハイコンテクストなコミュニケーションが楽しめるのではないか、とあるが、これは完全に矛盾していると思う。非言語化されたところにコンテクストはない。1枚の写真がどれだけ芳醇な意味を提示しうるとしても、そのためには言語が必要になる。

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2014/08/09

『ヤバい日本経済』/山口正洋・山崎元・吉崎達彦

4492396047 ヤバい日本経済
山口 正洋 山崎 元 吉崎 達彦
東洋経済新報社  2014-08-01


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東洋経済ONLINEの「やっぱり、アベノミクスは蜃気楼?」を読んだ流れで購入。アベノミクスは成果を上げているのか、という話題が最近あまり見なくなっていたところに新鮮だったので。

やっぱり、アベノミクスは蜃気楼?」でポイントと思ったのは:

  • 消費支出が前年同月比5月がマイナス8.0%、6月もマイナス3.0%
  • 機械受注が前月比5月マイナス19.5%
  • 日経平均が15,000円を維持している資産効果が全体を底上げ
  • 公共投資4兆円の恩恵を受ける業種だけ好調
  • 消費税上げの前は社会保障がままならないと言っておいて増税後は公共投資にばらまいている

これらを直裁に書かれていたので本著を読もうと思ったのですが、出だしは「予想を覆したアベノミクスの脱デフレ効果」でした。ただ、高額消費が増えた理由として、団塊世代の投資信託の価格回復が挙げられていて、上記の「日経平均が15,000円を維持している資産効果が全体を底上げ」と一貫していて納得しました。

しかしながら、日本経済全体が回復を実感できるのは、地価が上昇したとき、つまり、バブル前に購入してローンがまだ残っているような不動産の価値が今は「元本割れ」状態だけど、これが回復したら、皆お金を使うようになる、と解説されていて、理屈は理解できるけれどどうしてもこの理屈に素直に首を縦に振れない。その理屈だと、先の投資信託の話も併せて、消費の主役は団塊世代初め高齢者ということになる。高齢者は日本のボリュームゾーンだからそれは一面仕方がないとしても、資産効果によって高齢者の消費が好調になることが、20代~30代の若者世代の経済に波及するだろうか?地価の上昇によって経済を上向きにするシナリオよりも、下落した地価をコスト減と評価するほうが、今後の日本経済にとって望ましい方向ではないか、という疑問が持ち上がる。これは成長を是とするか非とするかという根本的なところに関わってくるので簡単に考えを纏められないが、地価が上昇しなければ日本経済は復活できないというロジックは、実は乗り越えなければいけない課題のような気がする。


そこへグッドタイミングというべきか、今日の日経朝刊にこんな記事。やはり、日本経済のマクロ指標が悪いというのは周知の事実なのだ。


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他に面白かったのは、ロシアが付加価値が分からない、希少価値しか分からない、という下り。なるほどね、と納得。

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2014/07/05

『「外食の裏側」を見抜くプロの全スキル、教えます。』/河岸宏和

B00KA25GVG 「外食の裏側」を見抜くプロの全スキル、教えます。
河岸 宏和
東洋経済新報社  2014-05-22

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食品業界関係者の中で「食品業界を知り尽くした男」と言われる著者による、良い外食・悪い外食の見分け方スキル。外食は儲けに走りすぎていておいしいものを出すという基本が失われている、というのが著者の主張で、全体を通じたメッセージは「料理に何を使っているのか、きちんと表示されていないことが問題」というもの。スーパーなど店頭での販売では食品の成分について表示が義務付けられているけれど、外食には義務付けられていない。外食のニーズは様々なので、もちろん「安く食べられればそれでいい」というニーズもあるだろうしそれに応える店があってもいい、だけどその店で何が提供されているかが表示されていなければ正しい選択が消費者はできない。これは何の異論もないと思う。

この本を読んで思い出したのは日経ビジネス2014/3/24号の「食卓ルネサンス」という記事。一言で纏めていうと、「もはや家庭で食事をつくるなんてナンセンスだ」という主張に貫かれていたと思う。老夫婦二人暮らしでどちらかが食事をつくる負担を背負ってまでつくる食事よりも安価で美味しいものが食べられるようになった、だから家庭で食事をつくるなんてナンセンスだ、老夫婦に限らず、あらゆる世代・世帯でこうした食サービスを利用することで、食事の準備をする時間からも開放されより生活が豊かになる、という主張。

日経ビジネスで紹介されていた安価な食サービス群が、『外食の裏側』で紹介されているような「コスト削減」手法を使っているサービスかどうかは分からないけれど、『外食の裏側』の主義主張である、「ちゃんとした手間をかけた、作りたての料理はおいしいものだ」に照らすと、どうしても「食卓ルネサンス」の主義主張に頷くことができない。私も『外食の裏側』と同じで、外食やコンビニの食事や出来合いの惣菜での食事を全く否定しない。けれど、効率とか時間の無さとかを理由にして、「食事をつくる」ということをカットする暮らしが幸せなものにつながるとは生理的に直感的にどうしてもそうは思えない。ここは、利用方法に節度が求められる重大なポイントだと思う。

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2014/06/07

『日本の論点』/大前研一

4833420627 日本の論点
大前 研一
プレジデント社  2013-10-10


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最近少し、時事問題に関して発散的というか散発的というか、ニュースで見て場当たり的に考えてそれで済ましてを日々繰り返して、「中長期的に何を考え続けないといけないんだろう?」という思考能力がやや低下していたので、論点整理された書物を纏めて読んでみたいと思いまずピックアップしたのがこれ。文藝春秋の『日本の論点』でも良かったんだけど、まずは少なめの量のものを。

頭に残ったポイントは2点:

  • 税制改革。所得減・人口減の社会では、金融資産・不動産などの資産課税が有効。フローではなくストックに課税する。
  • p185「今、除染の限界線量はどんどん下がり、逆に除染費用はうなぎ上りに上昇している。こうなると巨大な除染産業が勃興してきて、かつての自民党政治時代の砂防会館に象徴される「砂防ダム」のように、ホットスポットを見つけてきては予算を分捕る「利権化」が起きてくる。その利権の強い味方になっているのは、乳飲み子を抱えた母親であり、「校庭で遊べない子どもが可哀そう」などと騒ぐ親へのインタビューを得意とするマスメディアである」
資産課税に関しては、本著の03で書かれている「お金は使うべき」という論旨とも整合していた。どうしてもお金を使うことを推奨するスタンスに躊躇はあるけれど、やはり要は「使い方」なので、お金を貯めこむ層によって日本経済が歪んでいるとすれば、お金を使う方向に誘導するために資産課税を強化するのはよいと思う。

除染利権化に関しては、まず線量に関していったい何が正しいのかはずっと見続けないと分からないことなので簡単なことは言えないけれど、この文章を読んで真実だなと思ったのは、情緒的であることが社会を悪くすることは少なくないということ。過ぎたるはなお及ばざるが如しという諺もある。誰も反論できないような訴え方をする言説というのは大抵の場合害悪だと思ったほうがいい。

その他に考え続けたいと思ったポイントは:
  • 「安倍自民党政権がうまくいっているように見えるのは、中央の役人を上手に使っているからで、改革にはほど遠い。中央省庁を解体するか、すべての利権と権限を剥奪するくらいのことをしなければ、無血革命にはならない。中央集権を是としてきた自民党政権にそんなことできるわけがない。安倍政権にできるのは、せいぜい中央省庁の利権を奪わない程度に分け与えるお目こぼし「特区」くらいのものだ。したがって安部首相は改革者にはなれない」
  • 国民医療費の問題
  • 憲法96条について

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2014/05/03

『女のいない男たち』/村上春樹

4163900748 女のいない男たち
村上 春樹
文藝春秋  2014-04-18

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断トツに深い印象を残したのは『木野』。その都度その都度の出来事に対して本気の感情を出さない姿勢の顛末を描いていると思うけど、「しかし正しからざることをしないでいるだけでは足りないことも、この世界にはある」という一文をめいっぱい拡大解釈したくなる物語でした。黙って見過ごすことがより大きな罪であり災いを引き起こすのが現代社会だと思う。

タイトルどおり、女に「見捨てられる」男が主人公の短編集で、これまではそういった男が市民権を得ることはなかったと思う。むしろそれが特殊だから話になる、という扱いだったと思うけれど、本作はそれが普通のことになった、つまり女も男も捨てるものであり捨てられるものになったんだということを象徴しているよう。

目についたのが、「病気」といった言い回しが出てくること。もうどうしようもないことが世の中にはあって、それは「病気のようなもの」という片付け方を何度かしているように思う。それは突き詰め方が甘いというよりも、「なんでもかんでも原因分析してきりきりしていくばかりがいい結果にならない。病気だってあるんだ」という姿勢が現代は結構重要なんじゃないか、という視点を僕に改めてくれた。

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