2020/09/05

『アコーディオン弾きの息子』/ベルナルド・アチャガ

最も鮮烈に、かつ相対的に考えさせられたのがビラだった。「ビラを撒く」という行為がそれだけで警察に追われる時代があったということ。歴史を学ぶなかでそれは日本にもあったことだと知ってはいるものの、イメージ的にはむしろ行為そのものよりも、「悪」なる組織や存在がいて、ビラを撒くという行為でその組織や存在の出現が露見する、と捉えていたが、事はそれだけではなくて、実際に「ビラを撒く」ことで、仲間を増やせる時代があったという実感を持った。僕が生まれ育った感覚では、ビラというのはもはや「ガセネタ」とイコールだったから。スーパーの広告でさえ、価格そのものももしかしたら信じられない、というくらい、「ビラ」というのは軽薄な存在だったから。

そして現代ではこれがfacebookやinstagramやtwitterのデマ拡散と等値なのだろうと思った。風説の流布っていうのはテクノロジーが進化しても絶対になくならない。テクノロジーが進化さえすれば世界は真実の純度が増すというのは幻想。ここは重く掴み取らないといけない。facebookやinstagramやtwitterのフェイクニュースやデマや嘘は、ただインターネットのSNS上で適当なことが言いやすくなって、それで変な政治家が誕生しちゃうね、という受け止め方では浅すぎて、本著の時代のように、命に関わる事案なのだと。

それにしてもバスクについて、スペイン内戦について、本当になんとなくしか知っていなかった。すでに僕が生まれていた頃の出来事なのだ。理念は人を殺す。そして今はとうとう無理念も人を殺すところまで来た。

 

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2020/08/23

『一人称単数』/村上春樹

またいつか長編発表しはんのかなあ~というのが読中ずっと考えていたことでした。もうほんとに現代人は10秒とか20秒とかのショートコンテンツに慣れっこになっているので、長編小説って求められているのかなあという疑問不安がずっとあります。映画はまだ「観る」ものだし長くて3時間なのでどうにかなりそうだけど、「読む」のはかなり能動的だし長編は3時間なんかじゃ終わらないし。どうやったら長い時間をかけて文章を読むという体験が生き残るのだろうともうかなり長い年月考えている気がします。

「これって本当の著者の体験なんだろうか?」と思わせようとしてきたりするところが一人称単数というところかなと思いますが、過去のある時点の、それ自体はそんなに大したことのない出来事や行ったこと、覚えていない多くの事柄と同列のはずなのに覚えているというだけで動かせない事実のように思えてかつ人生の転換点みたいな位置づけになってしまう、それは個人ではどうにも抗えないことであるならばどうしようもないこととして受け入れるのだ、それとも忘れてしまうほうがいいのか。自分ではどうにも避けられない出来事や時代の流れというものがあって、何の間違いもしてないのにそれに大きな損害を負わされてしまうこともある。それをどう受け止めていくのか。それとも受け止めるのではなくて忘れてしまうほうがいいのか。新しい諦念を試されているように思えた。

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2020/06/22

『身銭を切れ』/ナシーム・ニコラス・タレブ

「身銭を切れ」というよりも「身銭を切らないヤツを信じるな」という忠告、というのがいちばん近いと思う。『反脆弱性』も難しかったけれどこの『身銭を切れ』の難しさはあれとはまた異質・・・『反脆弱性』は超複雑な方程式をこつこつ解いて理解する感じで、『身銭を切れ』は古文書を読解してる感じ。なんでそうなるのか?というのがただ読むだけではわからない箇所がかなりあった。そんな中、印象的だったのは宗教に関する章。宗教の果たしている役割を、果たしている役割そのものから説明する箇所は自分の感覚とぴったりあった。「宗教」と一括にしているけれどそれぞれ出自を考えると全く性質の異なるものだし、にも関わらず理由や説明でなくて人々にリスクを回避させる教えになっているという解説。そして、リスクは事象の大きさと起こりやすさで考えなくてはいけない。

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2020/05/17

『WHO YOU ARE』/ベン・ホロウィッツ

単純な興味で、ウチのCEOが今のAppleをどう思ってるのか、p68を読んで聞いてみたくなった。短いけれどもIT業界には歴史がある。経験ではなくて歴史から学ばなければいけない。

真の言葉と行動こそが困難を生き抜くチームをつくる、このリードがすべてと言ってもいいくらいよくできてる。日々リーダーシップに逡巡を続ける日々なので指針としてとてもありがたかった。「ここは違うんじゃ?」と言いたくなるところはひとつもなかった。自分ができるかできないかは考えず、身につけようと思える文章だった。

具体的なアドバイスとして生きるのは「ショッキングなルールをつくれ」というもの。わかりやすいルールではなく、自分の思いをチームに浸透させるためには一度聞いたら忘れないようなショッキングなルールをつくれというもの。そこに至るためには自分の思いを深く突き詰めて本質に至っていないとできないのでこれは厳しいけれども取り組みたい。

それと「徳」。この概念は非常にクリアになった。何か別の本でも「理屈で考えるな」というのを最近目にした。徳に理屈がないというのではなくて、教条に固執して進めるのではなく、真の言葉と行動で文化を形作っていく、ということだと思う。

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2020/05/05

『流浪の月』/凪良ゆう

決めつけというものがいかに人を苦しめるのか。見た目が悪人そうだから、言動が悪人そうだからその人の人間性までろくなもんじゃないという、ある意味素朴な決めつけの時代から現代は大きく展開し、何かの被害者に対しても害悪でしかない決めつけが横行する時代になった。その決めつけの中にはこれまた害悪でしかないような善意ーというよりも偽善が存在する。人は今まで自分が見聞きしてきた範囲でしか世界を理解することができない、それは主人公のアルバイト先の店長が典型的に指し示していて、その限界を突破するような話は展開しない。この物語はその「理解」の問題に関しては諦めているようにも見える。世界はそういうものだと諦めた上でどうやって生きていくのか、というところにたどり着いているように見える。決めつけはその程度によってレベルがあるのは認めざるを得ない、読み手としてはそれよりも極力「決めつけ」を起こさないようにするためにはどうすればいいのか、というところに思いを馳せるはず、そちら側に話は展開しないので、各々で答えを探しながら生きていくしかない。

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