« 『両手いっぱいの言葉―413のアフォリズム 』(寺山修司/新潮文庫) | トップページ | 『幸福な王子』(オスカー・ワイルド/新潮文庫) »

2005/05/04

『ナイン・ストーリーズ』(J.D.サリンジャー/新潮文庫)

ナイン・ストーリーズ
サリンジャー

新潮社 1986-01
売り上げランキング : 5,962

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

 『愛らしき口もと目は緑』が心に残っていて、と言っても話を完全に覚えている訳ではなく、昼メロのような雰囲気、それも洒脱な雰囲気が気に入って いただけだけど、あの話をもう一度読みたいなと買ってきたものの、『愛らしき口もと目は緑』は、結婚もして三十も過ぎて、この話の登場人物の年齢にはまだ まだ足りないだろうけれどだいたい同じような世界に住んでる身になって再読してみると、とりたてておもしろいと思うところもなかった。「まあどこかでそん なこともあるんだろうな」程度。初めて『ナイン・ストーリーズ』を読んだ学生時代、自分の知らない世界だったからおもしろいと思っただけ、あるいはおもし ろいと言わないといけない類のものだという強迫観念に負けてただけ。

 再読してみて、『バナナフィッシュにうってつけの日』は別格として、『笑い男』と『対エスキモー戦争の前夜』が心に残ってる。小道具としての名 詞・固有名詞に凝っていて、都会的で、含羞や皮肉やその他幾重にも折り重なった意味が作り出すソフィスティケートされた表現で、ストレートに語ってしまっ ては受け取ってもらえない人間のホンネの感情を伝えてくる。
 僕はサリンジャーのような、こういう表現こういう世界を、ソフィスティケートされて いて洗練されていておしゃれでかっこいいと感じる時代にかじるように育った自覚がある。だから反対に、例えば「一見悪そうだけどほんとは優しい人なのよ」 的な、「ホント」を伝えるためにいったん「ウソ」を挟まないといけないややこしさに辟易もしている。ギャップがあって、刺激(経済の世界でさえ「サプライ ズが必要」などと言う)があって、そうじゃないと「ホント」と認めてもらえないコミュニケーション。
 お話の世界は、おもしろさが大切で、そのた めに予期せぬ何かが必要だけど、物語の喪失とか物語の氾濫とか物語と現実がボーダーレスにとか、実際現実の世の中でも物語バリの「意外性」が常に要求され るようになってるようで、サリンジャーならここでどういう風に「もう一周」させるのか知りたいなと思う。

|

« 『両手いっぱいの言葉―413のアフォリズム 』(寺山修司/新潮文庫) | トップページ | 『幸福な王子』(オスカー・ワイルド/新潮文庫) »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/7655/3982960

この記事へのトラックバック一覧です: 『ナイン・ストーリーズ』(J.D.サリンジャー/新潮文庫):

« 『両手いっぱいの言葉―413のアフォリズム 』(寺山修司/新潮文庫) | トップページ | 『幸福な王子』(オスカー・ワイルド/新潮文庫) »