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2005/05/04

『銀河鉄道の夜』(宮沢賢治/角川文庫)

銀河鉄道の夜
宮沢 賢治

角川書店 1996-05
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 18年前の1985年、中学一年生の僕はますむらひろしの描いた猫のキャラクターに先に出会った。この猫に出会っていなかったら、僕の人生は全く違うも のになっていたと、当時を振り返ってみて強く思う。  文章の比類のない美しさ。それは、絢爛と洗練が競うように駆使された修辞などの美しさではなくて、例えば冒頭の、先生に銀河は何で出来ているか問われて ジョバンニもカムパネルラも判っているのに答えられず立ち尽くすシーンや、帰って来ない父親についてお母さんとジョバンニが話すシーンと言った、物悲しさ が篭る場面が不思議な清清しさと透明感を伴って響いてくる、そういった美しさ。 暗示を込めた、それも宿命的に悲しい暗示を込めた物語が、何故か凛とした 空気を湛えて胸に残る。よく「大人も読める童話」というふうな表現が使われるが、『銀河鉄道の夜』は紛れもなく童話だ。子供であっても大人であっても伝わ るものは変わらず、しかも必ずそれは伝わる。宮沢賢治が熱心な法華経信者であったことはよく知られているが、『銀河鉄道の夜』では賛美歌などキリスト教的 な表現が多用されている。大人にも子供にも変わらず伝わるのはそういった宗教的な表現が用いられているからではなくて、賢治の求道心が真理に届くまでに深 いからに他ならない。宗教観を背景にして、各宗教個別の教義ではなく、遍く宗教というものの真意を伝えることに成功している稀有な小説。  「子供であっても大人であっても伝わるものは変わらない」と書いたが、今回再読してひとつだけ18年前とは違った感想を抱いた。あれほど心を通わせた友 同士でも、カムラネルラはジョバンニと石炭袋の先で別れねばならず、それは恐らくは終の別れであって溺れたザネリを助けるための自己犠牲の末の別れでも あった。18年前の僕はそこから「ハナニハアラシノタトエモアルゾ」式の、それぞれの未来がありそれぞれの道があり、卒業で区切られた時間に暮らす学生ら しい無常観と、死をも厭わぬ自己犠牲の精神を掴み取ろうとしたのだが、時は過ぎあの頃の清清しさをまるっきり失ってしまったようで一見不幸な現在の僕達 は、しかしながら幸いなことに失いたくないと思う友を、本当の終の別れまで失わないでいられる。気持ちひとつでそうできることを、僕達は知っている。これ がどれほどのことか、18年前にはけして判らなかった。

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