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2005/05/04

『哀愁的東京』(重松清/光文社)

哀愁的東京
重松 清

光文社 2003-08-21
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 バブルの頃を一度見つめなおしてみよう。そう思った。

 この本を読むまでは、バブルの頃を目の敵にすることしかなかった。バブル時代を経験した世代が、その経験を今も忘れられずに世の中を動かそうとしていること。その時代の価値観以外の価値観を今も持てずにいること。そう一括りにしてバブルの頃を目の敵にしていた。
 バブルの頃に・・・

 バブルの頃を一度見つめなおしてみよう。そう思った。

 この本を読むまでは、バブルの頃を目の敵にすることしかなかった。バブル時代を経験した世代が、その経験を今も忘れられずに世の中を動かそうとしていること。その時代の価値観以外の価値観を今も持てずにいること。そう一括りにしてバブルの頃を目の敵にしていた。
 バブルの頃に大成功を収めて、時代が変わって転落したような人物がいたら、今までは「いい気味だ」くらいにしか思わなかっただろう。でも『哀愁的東京』を読んで「いい気味だ」なんて全く思わなかった。『哀愁的東京』に登場する”バブルの後”の人達を見ると、単純に決め付けることを反省する気持ちが湧き上がった。

 『哀愁的東京』は、賞を一発取った後作品が全く書けないでいる絵本作家の主人公・進藤を筆頭に、一時の栄光を浴びたその後を生きる人達が数多く登場する。
 成功が持て囃されたベンチャー社長、20年近く前大人気だった覗き部屋のアイドルに’96年にデビューミリオンヒットを連発した女性アイドルグループのメインボーカル、60年代から80年代にかけてヒットチャートにクレジットが見かけないことのなかった作曲者。
 時間の長短はあれどもみんな栄光の季節が終わったか終わりつつあり、その後を生きている人達だ。華やかさを取り戻せるかどうかは全く判らないし、強く楽観的にポジティブに再起を誓うようなところもない。そもそも40歳を過ぎた覗き部屋のアイドルや幼さが魅力の一部だった女性アイドルは、再起を誓おうにも誓えない。
 それでも彼ら彼女らは、”その後”を腐ることなく生きている。自棄になる訳でも天真爛漫になる訳でもなく、嫌というほどの栄光と挫折を味わったから出せる重厚な”その後”を生きている。 多かれ少なかれ大なり小なり人生には失敗があって、でも失敗したらそれでゲームエンドという訳にいかないのがまた人生。必ず”その後”がある。思えば崩壊したのだからバブルは「悪」だったのだ程度の認識しかなくて、バブルのその後も人生や歴史は続いているという当たり前の認識をいい加減にしてきたんじゃないかと思う。

 人生は失敗や成功がありながら最後まで積み重ねが効くものだとしたら、バブルの頃は誰しもが積み重ねることのできた、人生を凝縮した縮図のような時代だった。積み重ねられることができたから、『哀愁的東京』に登場するバブルを生きた人々も、自分達の生業に徹底していた。あの頃に戻りたいとか比較論でまだあの頃のほうがましとかあの頃をユートピア視したりはしないけど、あの時代をただ目の敵にするんじゃなくて、もう一度見つめなおしてみよう。新たな視線をとらまえてみよう。それが『哀愁的東京』を読み終えて生まれた変化だった。
 どういうふうに見つめなおせばいいのか、うまく掴めてはいないけれど。なんとなく、歌謡曲を散々バカにしてた秋元がぽつりという一言「寂しい時代かもしれないな、そういう歌がない時代って」というのがヒントになるような気がする。

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