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2005/05/04

『ちょっとピンぼけ』(Robert Capa/文春文庫)

ちょっとピンぼけ
R.キャパ 川添 浩史 井上 清一

文藝春秋 1979-01
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 第二次大戦を撮ったハンガリー人カメラマン、ロバート・キャパの1942年からヨーロッパ戦争終焉までの活動手記。
 ロバート・キャパの名前はもちろん知っていた。そんなに写真を見たことはないけれど、名前を出してべた褒めすれば「判ってる」気分になれる、そんないわゆる「カリスマ」を持ってるカメラマンとして。
 でもキャパのことをどんなふうに知っているかなんて、この圧倒的な手記を読むにはどうでもいいことだった。僕が生まれて読んだ中で五本の指に入る素晴らしい本。
 まず何よりも驚くのは、全編を貫かれるユーモア。キャパ自身は、文中でイギリス人に「なんでもどんな状況でも乗り越えられるユーモアを発揮できる見上げた人種」と評しているが、彼自身も相当なものだ。ましてそれが苛烈なヨーロッパ戦争の只中に発揮されるのだ。戦争を知らない、そして全体主義国家・日本の軍隊像しか知らない僕が知っている戦争に機転や洒落などない。頭で想像を行き渡らせることと、実際にその状況下に身を置いている人間との彼我の差を、ここでもまたまざまざと思い知らされる。
 キャパに限らずとにかくみんなよく飲むし、女が好きでしょうがないという雰囲気が至るところで読み取れる。戦時中の手記なのにそんなことが読み取れるのだ。歴史モノがあまり好きではない僕はそんなに戦争を取り上げた本を読んだことはないけど、それにしても日本の戦争モノでこんなことが読み取れた本なんてなかった。戦争の悲惨・非道を伝えることはもちろん大事だが、一面的に過ぎることの恐さは忘れてしまうのだろうか?
 ほんとにキャパが人間くさくて撮ることに夢中で魅力的な男だというのが凄まじく伝わってくる。敵国籍でありながらカメラマンとして帯同していく、酷く困難な道程にしか思えないのに、キャパはその都度その都度現場で出会った人とコミュニケーション(しかも彼は英語を満足に話せる訳ではない!)し味方につけて、どんどん前に進んでいく。今の自分は何かにつけ便利な世の中に住んでいるのに、なんて逃げ腰に生きているのだろうと深く反省し、とにかく対話で前に進めるんだという気持ちを起こさせてくれる。
 戦争中の話ということで興味が沸き難いかも知れないけれど、この文春文庫以外にも新訳が出ているそうだし、読みやすくなっていると思うので是非読んでもらいたい一冊。

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