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2006/02/15

『告白』(町田康/中央公論新社)

4120036219 告白
町田 康
中央公論新社  2005-03-25

by G-Tools

 「人はなぜ人を殺すのか」ってそんなことはどうでもよくって、「思ってることを表現する言葉を持たない人間はどうなってしまうのか」というテーマに強く惹かれた。まして舞台が河内で使ってる言葉が河内弁。最近、常々「腹の中ではそんなこと言いたいとは思ってないのに、関西弁という言葉のせいでノリで調子いい方向に話が流れていってしまう」という軽い悩みがあったりして、正直に言って読むのが怖かった。
 思っていることを直接・・・

 「人はなぜ人を殺すのか」ってそんなことはどうでもよくって、「思ってることを表現する言葉を持たない人間はどうなってしまうのか」というテーマ に強く惹かれた。まして舞台が河内で使ってる言葉が河内弁。最近、常々「腹の中ではそんなこと言いたいとは思ってないのに、関西弁という言葉のせいでノリ で調子いい方向に話が流れていってしまう」という軽い悩みがあったりして、正直に言って読むのが怖かった。
 思っていることを直接言葉に出せる人 間は、思ったことをすべて表せるだけの言葉を持ち合わせているか、持ち合わせている言葉の分しか思うことができないか二つに一つだろう。そして大抵の場 合、持ち合わせている言葉の分しか思うことができず、なおかつ思ったことはすぐ口をついて出る。それに対して、思ったことをすぐ言葉にすることが出来ず、 なおかつ頭の中で考えたことを表すための言葉をすべて持っている訳ではない人間もいる。

 思ったことをすべて伝えることが出来ないのも悲しすぎる不幸だし、思ったことをすべて伝えきれたと思ったのに伝わらないのはもっと悲しすぎる不幸 だ。思っていることを言葉に出来なくなってしまうのも根源的な悲しみだが、どれだけ言葉を尽くしてもやっぱり伝わらないということの悲しみは余りにも深 い。それは、自分が思いを伝えるだけの言葉を持たないからなのか、相手がそれだけの言葉を持たないからなのか。物語の最後、熊太郎が死力を尽くして自分の 考えを弥五郎に語るシーン、弥五郎がどう受け止め何を思ったのか判らなかったが、ただ一つはっきりしているのは、熊五郎が真摯に自分の思いを伝えたいと 願った気持ちは弥五郎には伝わらなかったのだろうし、熊太郎は自分の内なるエゴを、他人のことなど結局一度も考えたことなどないのだ、と突き詰めて突き詰 めても「ほんまのこと言うてへん気がする」と思った挙句、「あかんかった」という声を漏らして自決するのだ。これ以上悲しいことがあるだろうか。伝えるだ の伝えないだの表現しなければわからないだの言う人たちは、内なる言葉のこの悲しさに身悶えしたことはあるのだろうか?

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