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2006/04/01

『イン・ザ・プール』/奥田英朗

イン・ザ・プール イン・ザ・プール
奥田 英朗


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 面白かった。精神科医伊良部と看護婦マユミのキャラクターの設定が面白いし、病院という舞台設定も型が決まるので一話一話読みやすい。ちょうど、少年漫画を読むような感じで、すいすい読み進められた。伊良部のトンチンカンな言動に対する患者の反応が書かれるときのテンポなど、まるでコントを見ているように小気味良い。

 でも、僕は読書に少年漫画を求めている訳ではない。

 ・・・

 僕は本を読むとき、後で読み返しやすいように、気になった箇所にポストイットを貼るようにしている。書き込みをしてもすぐ見つけられないと意味がないの で、ここだという箇所にはポストイットを貼って書き込みして読み進める。本作も、主人公が精神科医であり、取り上げられる主事件がメンタル面の病なので、 ポストイットを貼っておこうと思うような箇所はいくつもあったのだが、結局それだけなのだ。「あ、なるほど。」と思っても、何かのキャッチコピーというか ワンフレーズというか、その一文を読んだときに「あ、なるほど。うまいこと言うなあ。」と感心するだけで、それ以上の奥行きは持たない。
 例えば、『勃ちっ放し』で、患者の哲也は、診察室で伊良部が3ヶ月で離婚した元妻と子供のような喧嘩をする様を見てこう述べる。

 「こいつらは解放されている。理性から。世間からも常識からも-。
  ずっと自由に生きている。人間という動物らしく-。」

 なるほど、自分の感情に素直に振舞う伊良部の様は、自由で理想のように見える。でも、それだけなのだ。この一文を読んだときに、「あ、そうだね。」と思 うだけで、それ以上の思索や感慨は沸いてこない。今までの自分の人生で経験してきたはずの不自由や苦難を思い起こさせるようなものはない。奇しくも『いて もたっても』で、患者のルポライター岩村を担当する編集者の木下が、岩村がピックアップした取材対象のニセホームレス詩人をこう評する。「なんスか、あの 手垢つきまくりの人生論は」。

 読書に娯楽を求めることは全く間違いじゃない。ストーリーの面白さを求めるのも読書の楽しみの一つに違いない。けれど、ただ、僕は読書にそういうものは 求めていなかった。例え娯楽小説であっても、文字で書き表そうという領域に踏み込んでいれば琴線に触れるものが立ち上ってくるはずと信じている。『イン・ ザ・プール』はそういう意味で漫画のようだったしキャッチ・コピー集のようだった。これは『空中ブランコ』を読まねばなるまい。

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