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2006/04/09

『その日のまえに』/重松清

その日のまえに その日のまえに
重松 清


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 愛する人が近く死んでしまう、というモチーフは、あんまりにも安易過ぎて(昔は「お涙頂戴モノ」と言って揶揄したものだ)好きじゃない。『その日のまえに』の帯を本屋で見たとき、重松清もこのモチーフを持ち出したか、とちょっとがっかりしたけれど、読んでみると「さすが重松清」と思わずにはおれなかった。重松清の、誠実で丁寧な筆致が、あまりにも有り勝ちなモチーフを、有り勝ちではあるけれど誰にとっても身近で真摯なモチーフなんだと胸に訴えかけてくる。

 ・・・

 重松清の小説の言葉には嘘がない。老若男女どんな登場人物の言葉にも嘘がない。「こんなこと言わないだろう?」というような、リアリティに欠け、話に集中させなくなる白々しい言葉がない。例えば『ヒア・カムズ・ザ・サン』のトシくんの次の言葉。

 「悪い癖というか、弱い性根というか、情けない根性というか、まともに向き合うとパニックになりそうなほど困った状況に陥ったら、考えるスイッチをオフにしてしまう。(中略)なにも見てない、なにも聞いてない、と自分に言い聞かせ、「なかったこと」にしてしまう。」

 こういうふうに逃げ込んでしまう若さ。こんな風に説得力ある言葉で、このモチーフの物語を語られると、至るところで目が潤んでしまう。人が死ぬこ と、人が死んだあとのこと、人が死んだ後のことを「その日のまえに」考えること、ひとつひとつ本当に丁寧に語られていて、「真剣に考えましょう」なんて言 われなくても読んでいるだけで自ずと真剣に考えてしまう。本当にいい小説だと思う。

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