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2006/04/19

『欲しいのは、あなただけ』/小手鞠るい

欲しいのは、あなただけ 欲しいのは、あなただけ
小手鞠 るい


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 驚いた。文句なしにおもしろかった。今年いちばんおもしろかった小説を年末振り返ったとき、たぶんいちばんにあげるんじゃないかと今時点で思うくらいおもしろかった。相当純度の高い恋愛小説なのに、「文学的価値は・・・」などと小難しいことを一切考えずにただただおもしろいと思って読み進め続けた。もし、僕ではない誰かの気持ちがすっかり手に取るように分かったとしても、その人の気持ちをここまで克明に書ききることは僕にはできないと思った。すっかり手に取るようにわかってしまったら、そしてその相手がこの「かもめ」だとしたら、ここまで言葉にしようとしたらあまりの苦しさに胸が潰れてしまうと思う。それほどまでにひしひしと伝わってくる。文句なしにオススメ。

 ・・・

 のっけから視点の違いを見せつけ続ける。例えば冒頭、「むかしむかし、好きになった人たちを思い出すとき、わたしはいつも、弟のことを思うような優しい 気持ちになる。だって、昔好きになった人は、好きになったときには年上だったのに、今はみんなわたしよりも年下なのだ。」当たり前のことだけど改めてこう いう視点になることはまずない。男はみんなまずないのではないだろうか。男の視点は、むかしむかし好きだった女の人はいつまでも歳を取らずその当時の美し い思い出のまま時を止めている、というだけで、「弟のことを思うような」変化はないのだ。男はただ縋るだけなのだ。
 二度の恋が表すかもめの一途さは情け容赦ない。一途というのはけして美しくて賞賛されるようなものばかりではない、もっと衝動的で執着的なものが本当の 一途さなのかも知れないと思い知る。しかし、かもめの求め方には男は戸惑うことしか出来ないだろう。「おまえが大学卒業したら、ちゃんと一緒になろうな。 一緒になって、ガキもいっぱいこしらえて。」と、結婚することがずっと一緒にいることだと常識的に考える元ちゃんに対し、かもめは文字通り二十四時間一秒 も離れず一緒にいることを求める。仕事に行ったら仕事に行ってる間は離れ離れだと、かもめは言うのだ。頭ではわかっても、男にはこの感覚は相当分からな い。詰まるところ、この非現実的な求められ方には「二十四時間四六時中一緒にいような」と口からでまかせを言うしかない、ともかくもそう「言う」というこ とで女の人はひとまず納得するのだが一般的にしっかりしている男であればあるほどそんないい加減なことを言おうとは思いつかない。きちんと生活を考える。 そこにすれ違いが生まれてしまうのだ。湧き上がる本能の一途さに。
 形振り構わずその人を欲しいと思う心情、それを貫き通す行動、克明に描かれるひとつひとつが痛々しく胸に迫ってくる。「優しい男」は、元ちゃん-「男ら しい男」とはまたタイプの違う「現実的な」男だが、そのステレオタイプな身勝手さが手に取るように分かる分だけ、一途なかもめがボロボロになる痛さが耐え 難い悲しさになってしまう。この言いようのないすれ違い行き違いに息が苦しくなるような思いをしながら思ったのは、何故か、優しくなりたい-「優しい男」 の優しさではなく-ということだった。まだまだ僕は人の気持ちを分かろうとしていないのだと痛感した。人の気持ちを分かるためには、相当の苦しい思い辛い 思いに耐えられる優しさが必要なのだと。もっとタフにならなければならないと。

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