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2006/07/22

『人生の旅をゆく』/よしもとばなな

4140055006 人生の旅をゆく
よしもと ばなな
日本放送出版協会  2006-06

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 1997年~2006年の10年間に様々な媒体に掲載されたエッセイを収録したエッセイ集。主に旅をテーマにした”Ⅰ”、主に生活と働き方をテーマにした”Ⅱ”、そして生命や家族を主なテーマにした”Ⅲ”の3部構成。テーマはほんとうに多岐に渡るので全編を通した感想は書くのがすごく難しいのだけど、改めてパラパラッと捲ってみて感じるのは、「普通感じていても言葉にできていないような思いを、すごく丁寧にきちんと言葉にしてくれているなあ」ということ。例えば『命の叫び』の一節、「相手の不在とか、不親切を前提にして、自分が被害者であることを前提にして生きている人がたくさんいるような気がする」。これなんかは、今の世の中が何かおかしいどこかおかしいというその根本をバチリと言い当てていると思います。

  • 『そのような生活』に、”「京都は、いくらでも、どんな歳の人でも息が抜ける場所や楽しめる景色がある。鴨川のほとりに座るだけでもみんなが豊かになる。東京はまずお金がないと、何もできない。」解決策はまだ思い当たらないが、…”という節があるが、これこそばななが「思い当たらないが・・・」で済ませてはならない問題だと思う。Ⅲで母性について「わが子さえ守れればという生々しいものだ」と語っているけれど、それとも照らし合わせてばなながこれからどんな解決策を著していくのかにとても興味津々。
  • 『懐かしいもの』の”子供と妊婦とお年寄りと車椅子の人…がいて当然の町、でも妙にその人たちに気をつかいすぎたりせず、最低限の設備があり、あとは人が人を助けたり、人が工夫をして過ごす…それが人間のいる普通の町なのだと思う”。とにかく今の日本はなんでもあらかじめ決め事がないと安心できない世の中になっていると思う。反対にあらかじめ決まってなかったことなら何をしても問われないようにもなっている。あらかじめできる限りの準備を尽くすことはもちろん大切なことだけど、それでも起きる出来事に対してもなんとか対応しようという心があって始めて準備は生きてくるし、その逆に何でも事が起きてからアドリブで対応しようというのはいろんな無駄や犠牲を強いることになる。どちらも必要なことなのだ。
  • 『なじむ』の”「そうです、懐かしいものを、捨てないでください。歳をとってくると、懐かしいものが、どんどん大事になります」”。もちろんわかっているけれど、わかっているからこそ、どんどん捨てるようにしていたから、ここで少し引っかかった。けれど、捨てることが大事なんじゃないと気づいた。何をどのように大切にするのか、それを考えるのが大事なんだ。
  • 『すいか』の居酒屋の話。この話は相当深い問題提起になっていると思う。「成功する人のつかみ」が、「(ばななを含む)自分たちのような成功者を見分けて、人脈を得て客を呼び込むこと」みたいに言ってしまっては、つまるところ金に支配されることを肯定してるのも同じ。おまけに”この世代はもうそういうことに慣れているんだなあ、と思ったのだ”では何も進展しない。この資本主義の世の中では何よりも効率とスピードが優先される。それに抗っても生きていけるだけの”何か”を備えた仕組みづくりを、ばななは著していかないといけないのでは?
  • 『幸福な夕方』の、”ある日、ふと、「私は何で残り物を捨てているのに、犬たちにドッグフードをあげているのだろう?」と思った。今、日本のペット界の常識は、「ドッグフード以外をあげると、犬の寿命が縮まる」だ。…(略)…人間がおいしく食べたものの残りを捨ててはペットフードを買っている現実と、自分でさえ「長生きしたいからではなく、精一杯楽しみたいから生きているのだ」という気持ちがあるのに、犬だけには長生きを押しつけるのもおかしいな、と思い、野菜や肉や米の入った味のないごはんを煮ててきとうに作ってあげるようにした。…(略)…犬が喜んでいるのを見て、私は目が覚めたような気がした。私はいったい、何を見失っていたのだろう?何かあたりまえな、大切なことだったように思う。多分、自分の頭で考えて、その分の責任をとるというようなことだ”。ここにはこのエッセイ集の大切なところがいっぱい詰まっていると思う。誰も彼も、誰かにレールを引いてもらいたがっているし、レールがないと何もできないし、レールに喜びや幸せを保証してもらいたがっている。レールを外れていい目に遭わないことがわかったあたりからこんな風潮が蔓延してるように思うのだけど、いい目に遭わせないのは”社会”というもので、そんな性格の”社会”を作っているのは他ならぬ僕たち自身の心なんだ。

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