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2006/08/10

『出口のない海』/横山秀夫

4062754622 出口のない海
横山 秀夫
講談社  2006-07-12

by G-Tools

 2,3年前、大津島に「回天」を見に行ったことがあって、それでこの本を本屋で見たとき即決で購入。この本は、僕の読書観を大きく変えた。簡単に言うと、「ほんとうに大切なことは、簡単な言葉でじゅうぶんしっかり伝えることができる」ということだった。
 僕は今まで、端的には村上春樹のような、重層的なイメージを言葉で紡いでいて、それをいろいろに考えながらテーマを読み取ろうと思わないとテーマが判らないようなのが面白かった。そういうのを小説を読むということだと思ってたし、そういうのがよい面白い小説だと思ってた。『出口のない海』も…

、序盤はそういう読書観だった僕には面白くなかった。野球部というよくあるグループ付け、高校野球で大きな注目を浴びた天才ピッチャー並木とその挫折、並木に絡んでくる幼馴染の女性。それに対して妙に詳しくてそこだけ浮いている兵器の描写。
 ところが後半、話は俄かに重たいリアリティを持って迫ってくる。並木は回天隊に入隊し、戦局は悪化し、いつ出撃するとも知れない状況になる。その事実を 結婚を約束した幼馴染に伝えるべきなのか。機体故障で出撃できなかったことを逃げたと詰られる理不尽な状況。そしてこんなことでは愛する人を守れないと 判っていながらも回天隊という場所から離れることなど出来ない状況。
 一億総玉砕に対して、「それでは身を呈する意味がないではないか」と考える並木。回天に乗り込み自分の命を差し出すのは、愛する人を守りたいからなの に、回天で敵艦に多少のダメージを与えたところで戦局はもはや変わるはずもなく、ましてや一億総玉砕なら愛する人も死ぬことを意味する。なら何のために自 分は命を差し出すー?並木はひたすらに考え抜き、ひとつの結論を出す。そしてその結論を実行に移すのだ。

 何となれば柵やらルールやらで「どうしようもない」「しようがない」という言葉が蔓延する世の中だけど、そうそう簡単に諦めてはいけないとこの本を読ん でほんとうに感じた。どうしようもなくてもしようがなくても何かやれることは絶対にあるはずなのだ。そしてそんな簡単なだけど大切なことを、ほんとうに平 易な言葉だけで語った物語で読者に強く迫ってくる。

 それでもひとつ判らなかったのは、並木の最後の言葉だ。

 「また会いたいな。回天隊でなく、高円寺の商店街あたりで、ばったりとな。」

 もう会える可能性がない人に、「また会いたい」という希望を抱く気持ちがわからない。そんな希望は、胸に浮かぶたび自分を傷つけるだけじゃないのだろうか?そう思う僕は未熟なのだろうか?

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コメント

ゆうきさん、はじめまして。
コメントありがとうございます!

僕はけしてきちんとした文学を読んできた訳じゃないんです(笑)。ましてきちんと文学を読解できる訳でもなくて。
でも、書評やまわりの人の読み方や感想をきちんと読みつつとらわれずに自分の感じ方を書いて、それを「興味深かった」とコメントして頂けたのはほんとに嬉しいです!

この本は、もちろん反戦・平和を考えさせられたんですが、
あの当時も当然反戦・平和を願った人たちはいたはずだし、
なのに戦争賛成に流れてしまう人や
反戦の気持ちを持ちながら国には抗えず苦しい思いを
している人がたくさんいたと思うんです。
並木はじめ彼らを通して、その心情を読み取らなければ、
僕らもいつか同じ過ちを繰り返すのではないか、
そういうことを考えながら読みました。

投稿: タツミ | 2006/10/29 19:56

こんにちは。はじめまして。
記事を興味深く読ませていただきました。
私とは、正反対の読書感をお持ちなんですねー。
私は、一生懸命考えないとテーマがわからないような、
いわゆる「純文学」って、面白いと思えないので。

でも、読書ブログをめぐれば、私を含めてほとんどの人が、
「戦争の悲惨さ、平和の大切さ」について、
似たような感想を書いておられる中で、
並木の思考や心情に焦点をあわせているこの記事は、
とても興味深かったです。
きちんとした文学を読んでこられた方だからこその
アプローチだなあと、思いました。

投稿: ゆうき | 2006/10/28 18:05

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 「出口の無い海」(横山秀夫:講談社文庫)を読んだ。市川海老蔵主演で9月16日から公開される映画の原作である。  読後感は、非常に重い。 太平洋戦争末期、追い詰められた軍部は、とんでもない愚挙にでる。特攻作戦である。空の戦闘機による特攻だけでなく、海の...... [続きを読む]

受信: 2006/08/27 19:52

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