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2007/06/17

『ナンバー9ドリーム』/デイヴィッド・ミッチェル

4105900595 ナンバー9ドリーム
デイヴィッド・ミッチェル 高吉 一郎
新潮社  2007-02-24

by G-Tools

 屋久島で育った詠爾が、まだ見ぬ父と会うため上京する。イギリス人作家が東京を舞台に書いた村上春樹的小説。

 話の筋があちらこちらに飛ぶし、語り口もトレインスポッティングみたいで洒脱でおもしろいんだけど、いかんせん長い!英語だと疾走感あるんだと思うんだけど、仮名漢字交じり日本語で見開き全部改行なしだと正直困惑する。本の厚さ以上に長く感じるし、名詞が重ねられて重厚な情報量であるところとか都会的なんだけど、ここってところでちょっと薄くなってしまってるところとかある。例えば、回天日記を素材とした章で、…

祖父である月山宝の心中を察する場面-”(前略)戦後に誕生することになった新しい日本によって作られたなんて。月山昴は無条件降伏とともに死んだ日本に よって作られた。両方の日本によって作られた人たち、たとえば月山宝、なんかはつらかったんだろうなあ”。「つらかったんだろうなあ」で終わり。本題でな いとは言え、回天日記を素材としながら「つらかったんだろうなあ」はないだろう、とちょっとがっかりする。

 最も分かりやすい村上春樹的な章「物語研究」とか、SFさながらの空想世界が炸裂する「パン・オプティコン」や国防総省にハッキングを試みる須賀のス トーリーなど、日本的アニメ的なエピソードの段では言葉の選び方や言い回しがおもしろいけれど、心情に踏み込むようなモチーフになると上記の「つらかった んだろうなあ」のように弱弱しさが否めない。その落差で真実味を炙りだすといった強さは持ってない。

 東京が舞台になっていて、イギリス人作家が書いたにも関わらず東京が舞台になってることに違和感ないくらい東京の、日本の雰囲気が出てるんだけど、反対 に、ヤクザやオタクは出てくるものの、別に東京じゃなくてもこの話成り立つよなあという不思議な印象もある。どこか全然知らないヨーロッパの近代都市が舞 台でもたぶん違和感ないんじゃないか、というような。東京も実はそれほど特殊じゃない、ということなんだろうか?もしかしたらこれが東京じゃなくて仙台と か名古屋でも違和感ないんだろうか?個人的には、数年前偶然足を踏み入れた大津島と、自分の出身地である奈良が回天日記のエピソードで同時に登場すること に何か無視できない感覚を覚えた。恐らくこの「奈良」は、訳者注にて「史実にあわないところもあるが」と書かれている部分ではないかと思うのではあるけれ ど。

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