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2007/10/07

『悪人』/吉田修一

402250272X 悪人
吉田 修一
朝日新聞社出版局  2007-04

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 まず感じたのは、世の中の出来事や仕組みを自分は全然知らないし、見れてもないし、興味も持ててないのだなあという反省。被害者である桂乃が勤めていた業界である生命保険会社についての記述であるp66「社員を循環させることで新規の顧客を増やすこの手の業界」なんかは、自分も長い間社会人をやっているのだから書けそうな一文だけど、もし自分が生命保険会社を説明する文章を書こうとしたとき、この視点があったかと言われたら心許ない。そういった調子で、自分がいかに社会を見ていないかということを痛切に感じた。

 悪人探しをしても意味がないと思うし、誰もが悪人である可能性を持ってるという筋ではあるけれど、敢えて誰が本当の悪人か考えてみたい。それは…

祐一だと僕は思う。確かに祐一はあまりにも不幸な運命を辿り、犯した「悪」は偶発的だったと言っていいと思う。そして、もう後にも先にも行けなく なってしまったとき、一緒にいた光代をこの先苦しめることのないよう(おそらく)演技をする。そうして、その後もその演技に一貫した言動を取る。その「演 技」が嘘だから悪人だというんじゃない。一時のことだと知りながら正直な我侭をぶつけてくれ、その上命を賭する覚悟をみせるほどに自分を信じてくれている 光代を最後まで信じれなかったこと。この先、光代が苦しんでしまうとしても、本当のこととともに生きる道を選ばなかったこと。例えそれがどんなに苦しいこ とであっても、光代は引き受けることが出来ただろう。そういう光代を信じれなかったこと。それが祐一を悪人だと思う理由だ。

p15「…うちも一緒たい。こっちがちょっと犬の散歩ば頼んだだけで、『アンタはいっちょん家事の大変さば分かっとらん!私ば家政婦さんか何かと思うとる!』ち怒り出すし」

p66「社員を循環させることで新規の顧客を増やすこの手の業界」
p80「佳乃の男に愛撫される自分を想像したとたん、まるでその夢が壊されるためにあるような気がして仕方なかった。」
p115「夫婦のどちらかが亡くなれば、生活費もまた半分なくなるということなのだ。」
p184「寂しさというのは、自分の話を誰かに聞いてもらいたいと切望する気持ちなのかもしれないと祐一は思う。」
p245「お世辞でもかまわんとですよ。」
p385「逃げとるだけじゃ、なんも変わらんとよ。待っとっても助けは来ん。このままじゃ、配給の芋を投げられて、それでも黙って拾っとったあの頃と変わりゃせん。がんばらんば。馬鹿にされてたまるか。がんばらんば。」
p397「今の世の中、大切な人もおらん人間が多すぎったい。大切な人がおらん人間は、何でもできると思い込む。自分には失うもんがなかっち、それで自分が強うなった気になっとる。」
p402「祐一、逃げたら駄目よ。怖かやろうけど、逃げたら駄目よ。逃げたってなんも変わらん。逃げたって誰も助けてくれんとよ。」

石橋佳乃 … 保険外交員 絞殺
石橋佳男・里子
増尾圭吾 … 南西学院大学商学部四年生
清水祐一 … 土木作業員
安達眞子 … 佳乃の同僚
谷元沙里 … 佳乃の同僚
仲町鈴香 … 佳乃の同僚
土浦洋介 … 鈴香の友達

矢島憲夫・実千代 … 長崎市の解体業
勝治・房枝 … 祐一の祖父母
重子 … 勝治・房江の娘
依子 … 勝治・房江の娘で祐一の母

鶴田公紀 … 増尾の友人

金子美保 … かつて清水を客にしていた

林完治 … 福岡市内の塾講師。佳乃と出会い系で会っている。

柴田一二三 … 清水の幼馴染

馬込光代 … 祐一とつきあう
水谷和子 … 光代の同僚

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コメント

TBさせていただきました

著者が並々ならぬ覚悟でこの作品に取り組み、できる限りの力を注いだという熱意が伝わってくるような本でした。

投稿: タウム | 2007/11/17 02:47

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