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2008/09/15

『スイッチ』/さとうさくら

4796652477 スイッチ
さとう さくら
宝島社  2006-04-22

by G-Tools

 就職活動に失敗し、フリーター暮らしを続ける26歳の晴海苫子。彼女はうまくいかないことがあると、消えてほしい相手の襟足にスイッチを探すか、自分の襟足にスイッチを手探りする。存在を消してしまうスイッチをー。

 この小説は、「日本ラブストーリー大賞」に応募された作品で、「審査員絶賛賞」という賞を受賞した小説。苫子のあまりにうまくいかない社会人ぶりが目に付くけど、これは確かにラブストーリーだと思う。苫子がうまくいかないところは、社会人としてはあまりにレベルが低いところもあるけれど、うまくいかないから逃げ出してまたうまくいかなくて、というループは、社会生活だけじゃなくて生活のいろんな場面で存在していて、誰でも共感するところがあるんじゃないかと思う。例えば苫子の短大時代の友達で、仕事を器用に頑張っているように傍からは見える結衣だって、その体裁を取り繕うことの繰り返しに実はほとほと疲れきっている。
 うまくいかなくて逃げて、もしくはごまかして、そしてまたうまくいかなくて、という繰り返しは、誰にだってあるもので、そこを何とかするためには、遮二無二ぶつかっていくしかない。それで例えやっぱりうまくいかなかったとしても、逃げてループしてまたうまくいかないのとは絶対違う何かが起きる。サル男との別れ際の絶叫もそうだし、結衣との終盤の電話のやり取りもそう。面倒がらずにやれることをやってみるんだと腰をあげるしか道はないってことを一気に読ませてくれる、いい小説だと思いました。

 苫子がうまくいかない原因の根本として、「落ちる」という言葉が出てくる。「気持ちが落ちる」ということだけど、原因の追及がそこで止まってしまっているのは残念といえば残念。でもこれは恋愛小説なので、そういう気分のメカニズムについて深入りすると詰まらなくなる。敢えて言えば、サル男との話のなかで、「何でも気分次第」くらいの雰囲気を漂わせてほしかったかな。サル男とのくだりも、「上がった気持ちもすぐ落ちてもともこもない」で終わってる気がするから。

p37「だが苫子は、できない後輩を励まし、友達のいない苫子を試合に誘った由紀子の、自作自演の舞台を見ている気がした」
p53「・・・正しくないと、ダメですか?」
p77「わかってほしいことは何ひとつ理解されないのに、やってしまったことは、安易に本質として見られてしまう」
p110「その切り替えの慣れた感じを、苫子は白い目で見ていた」
p114「苫子が人間関係に臆病になる所以の、「切られる感覚」が、苫子の中にこみ上げてきた」
p121「満たされないからこそ、生きる意味があるんだ」
p150「程度の差はあれ、社会で重要なのは人の和で、強調性に欠けるということは、仕事ができないのと同じことだった。
p154「浮かれた気持ちも、すぐに落ちる。ことあるごとに、苫子は簡単に、人を消したいだの自分が消えたいだのと思っていた。そして、誰かや何かにイラつく原因は、すぐに気持ちの落ちる苫子自身にあることも、苫子は気づいていた」
p176「瑠夏の嬉しそうな笑顔に、若いっていいな、と苫子は思っていた」
p220「そして、周りが成長していく中で一人、苫子は取り残されている気がしていた」
p251「世の中は、自分が思うよりずっと広い。境界線は、自分が引いているだけなんだ」

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