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2009/03/15

『雲の果てに 秘録富士通・IBM訴訟』/伊集院丈

4532314283 雲の果てに―秘録 富士通・IBM訴訟
伊集院 丈
日本経済新聞出版社  2008-12

by G-Tools

 どんなことにも、どんなものにも、歴史があるのだと教えてくれる一冊。

 まず、IT業界にいながら、何もわかっていなかった自分が恥ずかしい。OSは自明のものだと思っていた。違うのだ。OSは最初から存在したものではない。ハードウェアと、ソフトウェアしかない時代があったのだ。互換機ビジネスとスーパーセット戦略はそういう歴史の中から生まれたもので、単純にメインフレームの後続だった訳ではないのだ。そんなことすら知らなかった。そして、その中で知的財産と著作権が最大の焦点になったのだということも知らなかった。知的財産と著作権は、自明のものだと思っていた。最初にそれを作った人間が、それを独占的に使用する権利を持つ。それはソフトウェアについても当然そうだろう、という「感覚」を持って育ってきた。そこには争点があり、歴史がある。そういう認識に欠けたまま、来てしまったのだ。

 IT業界だけではない。今でこそ米国は著作権を当然のように振りかざす存在だが、かつてはコピー天国と言われ欧州に軽蔑されていたのだ。その米国が、歴史の中で、自分たちの権益を守るための方便として、著作権に目をつけ、それを振りかざすようになっていく。そんな、欧州から「幼稚だ」と言われる米国を日本は追い続け、その米国に屈し、果てに「この国は駄目になる」と言われる。そんな米国流の資本の論理が席巻した数年前、買収される側の日本企業の抵抗を、精神論でしかないと切ってすてるような論法が持てはやされたが、果たして米国でも1974年時点では、アムダールという会社は富士通に対して、金と技術の提供は受けるが経営に口出しされたくない、という署名活動を起こしているのだ。おまけに、僕は「日本は器用で技術力の高い国で、日本製品は高品質だ」と子供の頃から思い込んで生きてきたが、1980年代でも日本人は「そもそも日本人が先端技術に手を出すことが間違いだ。日本人にコンピュータを開発する能力なんてないんだ」などと言われるような存在だったのだ。

 すべて目から鱗だった。簡潔に纏めてしまえば、声のでかいものが勝つ、ということと、先を走ったものが勝つ、という、単純な結論しか出てこない。けれど、本書の終わりのも書かれている通り、米国流の金融資本主義は瓦解し、繰り返す歴史と新しい歴史が混沌としている時代に来ている。まさに多く歴史を学ばなければいけない時代であり、全てにおいて自分の目で先を見通し生きていかなければならない。この本に教えられるところは多い。

p24「見栄とか、プライドだろう。そういう奴が俺は一番嫌いなんだ。知っていて喋らないということは辛いんだ!知らないほうがはるかに楽なんだ!」
p36「Fear Uncertainty & Doubt」
p38「アムダール博士が・・・金と技術の支援は受けても、経営には干渉されたくない。」
p40「持ち株比率が下がっても売上げさえ増えればいいという意見が多数を占めていた。」
p45「梶を使える上司がいない。逆に梶が上司に合わせればよいのだが、それをやらない。やらないというよりやれないのだ。尻尾が振れない。正確に言えば尻尾がないのだ。」
p56「私は弁護士の複眼的観察力に驚いて」
p66「SNAのように行き詰まり」
p77「米国の政治スキームは非常に未成熟なんです。市民革命の試練を経ていない」
p77「米国の政治家がいう「自由とか価値観」は、欧州から見れば幼稚なものだ。政治を動かしている原動力は、人為的な愛国心と実質的なビジネスである。」
p87「この劣等意識が後年、数字管理中心の経営体質を生む遠因となる。」
p95「企業は安定成長すると必ず不健全な増殖をする。まず「人のためにポストを作り、組織を作る」、その次は「組織のために仕事を作る」、その結果、企業の崩壊が始まる。」
p105「19世紀、米国はコピー天国と言われ、欧州から軽蔑の目で見られていた。」
p106「著作権法の欠陥は、無方式主義、長期間の独占権、無表示の三点」
p106「全ての弊害は1886年のベルヌ条約にある」
p106「その後、1952年に万国著作権条約が結ばれる」
p106「CONTU報告書」
p112「その年(1985年)の十月のプラザ合意で、日本は米国に膝を屈した。円高誘導と低金利という妙な組み合わせ」
p117「そもそも日本人が先端技術に手を出すことが間違いだ。日本人にコンピュータを開発する能力なんてないんだ」
p145「「広告は世相を反映するものだ」・・・「この国は駄目になる」1986年の正月のことである。」
p165「SPLの使用を中止させます」
p184「IBMから離れられない顧客の不安を見る思いがした」
p197「前川レポート」「第二次中曽根内閣の産物」
p204「マイクロソフトのOSを基本版として、独自の拡張版を作り出したのだ。富士通がIBMに挑んだスーパーセット作戦と同じだ。この強引な投げ技は、結果的にパソコンのマーケットには通じなかった。」
p215「全て自由で自己責任が原則だと思っています」
p218「ビジネスプランが尊重された。・・・ROIが企業経営の軸になった」
p222「伊集院さん、IBM扮装は終わった。富士通はもう貴方を必要としていない」

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