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2009/05/04

『チョコレート・アンダーグラウンド』/アレックス・シアラー

4763004204 チョコレート・アンダーグラウンド
Alex Shearer 金原 瑞人
求龍堂  2004-05

by G-Tools

 選挙に勝利した「健全健康党」は、「りんごさくさく気分をどうぞ」を合言葉に、チョコレート禁止令を出した!町から甘いものがどんどん駆逐されていく。勇気ある少年、ハントリーとスマッジャーは、「健全健康党」に挑戦すべく、チョコレートの密造を始める!

 完全無欠の少年少女冒険活劇。なので、そこに込められている含意とか、解説を待たず読んだ人だれもがピンときて、納得できると思う。これだけ理想的な冒険ストーリーなのに、「水戸黄門」のような偉大なマンネリズムを観る安心感で読み進めるというのではなく、盛り上がりながら面白く読めるのは、健全健康党に立ち向かう手立てのディティールのリアルさと、それぞれの立場の人々の真理のリアルさだと思う。健全健康党に取り入りたいフランキー・クローリーのいやらしさとか、フランキーがそうしようとした理由、それにその理由を知っても用心してしまうスマッジャーの揺れとか、そんなスマッジャーなのにチョコバーを開催できて以降は有頂天になって油断してしまうところとか。どのタイミングでも、どちらか一方に簡単に事が流れない。ここが楽しめるポイントだと思う。

 『ノーと私』を読んだときにも思ったんだけど、イギリスやフランスの児童文学というのは、こんなに社会派なんだろうか?『ノーと私』は若いホームレスがテーマだったし、『チョコレート・アンダーグラウンド』ではアパシーなんかも取り上げられてて、「アパシー」という言葉までちゃんと出てくる。僕が小学生の頃読んだ児童文学で、社会問題を取り上げてたものってあっただろうか?現実の問題を取り上げたものというと、大抵が戦争ものだったように思う。「もう戦争はしてはいけません。こんなに悲惨なことになるのです」という。それ自体はとても意味のあることだと思うけど、それ以外は「夢と希望」みたいな感じだった気がする。もちろん人間にとって最も大切なのは「こころ」だけど、こころの外で何が起きているのかを見つめられないなら、それはただの根性論と同じじゃないか?引きこもりの問題はけして日本だけじゃないから、これと引きこもりを結びつける気はないけれど、こころの外を見つめられる根気というのが、今の空気全体に欠けているような気がした。

 この小説はスマッジャーがヒーローっぽいんだけど、読んでてずっと共感してたのはハントリー。主人公ってどっちかって言うとハントリーじゃないか?と思ってたら、人物紹介はハントリーが1番だった。スマッジャーとハントリーの親はどちらも果敢な親で、スマッジャーとハントリーに協力してくれるんだけど、こういうのを読むと「自分の親とは違うなあ」と一瞬思い、そのあと、いや待てよ、僕の両親も、僕のすることを止めたことなんて一度もなかったな、と、感謝の念がおきる。それだけで、ちょっと自分も成長できたかな、と思える。

p14「「どっちの党も同じようなもんだ。どうしようもない」父さんは言った。/だが、おそらく、同じではなかったのだ。」
p15「悪が栄えるためには、善人がなにもしないでいてくれればそれだけでいい」
p19「出すぎた善行なんてものはよけいなお世話だ。自分の考えを人に押し付けるってことだからな」
p46「多くの人たちはただ法律を守ろうとする市民で、求められるとおりに行動し、トラブルを好まないだけだ」
p49「あの党に「投票してはいなかった」」
p154「時間がたたないとわからないことだ。本屋でも、密売屋でも同じだ-先のことは、決してわからない。その瞬間を生きるしかない。」
p247「今では、おばさんをたしなめたことを悪いと思っていた。」
p281「今の状況でそんなことを言うのは子どもっぽくて恥ずかしい気がした。」
p381「人間らしさがいくらかえも無傷のまま残っている者、同情や哀れみが少しでも残っているものだけが、疑いをもち、あいまいなことに悩む。」
p382「その人の立場になったら自分がどうするかなんて、わからないだろう?」
p423「むりだと思う。そのことは考慮した上で、計画から除外した」
p434「頼みごとをするには最悪のタイミングしか残っていないことがよくある。そのときは、そのチャンスに賭けるしかないのだ。」
p479「若い人たちには、先に立つ者が必要かも知れない。」

ハントリー・リチャード・ハンター
スマッジャー(スティーヴィン)・ムーア
バビおばさん(ドリーン・バビ)
ジョン・ブレイズ
チャールズ・モファット
チョコレート捜査官
フランキー・クローリー
マートル・バーキンズ
キャロル・ハンター
カイリー・ムーア
ロン・ムーア
トリーシャ・ムーア
デイヴ・チェン
トバイアス・マロー

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