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2011/11/27

『ラフ・ライド―アベレージレーサーのツール・ド・フランス』/ポール・キメイジ

4915841863 ラフ・ライド―アベレージレーサーのツール・ド・フランス
ポール・キメイジ 大坪 真子
未知谷  1999-05

by G-Tools

 今、日本は空前の自転車ブーム。ほぼ連日のようにニュースでは自転車に関するニュース(それはたいていピストの暴走とかのあまりよくないニュース)が取り上げられる。エコな移動手段、健康的、クリーンなイメージと共にある自転車。でも自転車がブームになったのは今が初めてじゃない。1960年代にも大流行したことがあるらしく、当然だけどその歴史は古い。

 本著が取り上げているのはそれよりはまだ新しく、1980年代後半のツール・ド・フランスを中心に語られる。1980年代と言えば日本は高度成長期からバブルに向かおうとする、正に現代に通じる発展を遂げてきた時代で、世界ももちろんそう変わらない。にも関わらず、登場するエピソードはいったいいつの時代の話なんですか?と繰り返し聞きたくなるくらいに泥臭く闇の世界的なある行為が語られる。ドーピングだ。
 自転車競技は1980年代、薬物に汚染される道をひた走っていたらしい。ドーピング自体は禁止行為だったが、バレなければ構わない。というよりも、バレずに済むことが判っていれば使用する者が当然のように現れ、使用しない者は使用する者にどうやっても勝てないとすれば、これも当然のように誰も彼も使用するようになる。正に悪化は良貨を駆逐する。そこまでして勝たなければいけない最大の理由はスポンサーだ。つまり、1980年代のロードレース界は、金によって薬にズブズブと使ってしまっていたのだ。

 著者のポール・キメイジは本著のサブタイトルに「アベレージレーサー」とある通り、華々しい戦績を挙げた選手ではない。であるが故に、ドーピングの告発を込めたこの本も、その発言も、「ぱっとしない選手がああいうことよく言うんですよね」式に片づけられそうになったらしい。ルールを破ることが成功するための唯一の道で、その中でルールを守ることを貫き通す勇気を、この本から学ぶことには意味がある。どんな世界でも、常にルールと倫理を厳しく守り通して競い合うとは限らない。むしろ逆で、ルールの抜け道を探し出すことが勝利に大きく貢献したりする。それでも、自分はそのようなことはしないというスタンスを貫く勇気と、そういうルールを補正し続けて行こうという持続力の大切さを知ることのできる良書。

p55「日本人選手タカハシ(高橋松吉、ロサンゼルス・オリンピック日本代表)
p56「あのとき彼の顔に浮かんだ表情を、ぼくは決して忘れない」
p66「選手が”温かく”迎えられ、試され、無造作に捨てられていく姿は、まるで大量生産の工場を見るようだった」
p76「あの錠剤は、”寒さ(ル・フロウ)”用でなく、”肝臓(ル・フォア)”用だったのだ
p88「協力チームがお金を手に入れるのは、RMOが地力でレースをコントロールできなくなったときだ」
p91「わが社は物笑いの種になるためにおの事業に参入しているのではない」
p109「シャトー・マルゴー、ムートン・ロチルド、シャトー・ディケム」
p121「自分もいつか普通の生活にもどらなければならないんだ」
p121「ジャン=ルイ・ゴーティエ」
p122「律儀な性格が災いしてもとのスポンサーから離れなかった。今ごろになって、あれは間違いだったと気づいた」
p126「彼は口ごもることなく、あっさり答えた。「あれは危険だからやめろ。体がやられてしまう。あんなものには手を出すな」」
p146「ツール・ド・フランスでは、人体に超人的な要求が課せられる」
p173「サッカーチーム、マンチェスター・ユナイテッドの全員を死に追いやったミュンヘンの飛行機事故」
p183「シナクテン」
p207「暗黒の悪の世界で純潔を守るために闘う正義のヒーローを演じる自分に、ある種の自己満足を感じていたが、それももう終わった。完全に過去の遺物と化した。

p237「薄汚れ、苦しみ、注射器を口にくわえたデデの姿に胸が悪くなり」
p239「ラルプ・デュエズ」
p309「オメルタ」
p319「ファンやテレビ会社の目前でこのスポーツのイメージが傷つくのを恐れている。ビジネスにモラルはなく、自転車競技はビジネスになった。」
p337「ぼくが思うには、すべては1980年代末のイタリアから始まりました。」
p340「EPOや成長ホルモンはその何倍も危険です。プロ生活を通じてひどく失望したのは、役員たちの日和見的態度です。」

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