« 2012年2月 | トップページ | 2012年4月 »

2012/03/21

『バートルビー/ベニト・セレノ』/ハーマン・メルヴィル

4990481127 バートルビー/ベニト・セレノ
ハーマン・メルヴィル 留守晴夫
圭書房  2011-01-10

by G-Tools

 「その気になる」「ならない」ということと、「そうしない気になる」というのは全く異なること。「その気にならない」というのはただの否定だけど、「そうしない気になる」というのは否定の肯定だ。この「そうしない気になる」ということに、いろんな哲学者が可能性を見出したらしい。それを眺めているだけで興味津々。

 「代書人」という職業も気になる。郵便配達人にしても、代書人にしても、ある意味、国家から仕事を貰う立場のように思う(今の日本は郵政は民営化されているけど)。そういう、国家から与えられる仕事には、嫌気が指すということなんだろうか?それはともかく、どちらも言葉を扱う仕事であるところが奥深い。

続きを読む "『バートルビー/ベニト・セレノ』/ハーマン・メルヴィル"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012/03/20

『春を恨んだりはしない-震災をめぐって考えたこと』/池澤夏樹

4120042618 春を恨んだりはしない - 震災をめぐって考えたこと
池澤 夏樹 鷲尾 和彦
中央公論新社  2011-09-08

by G-Tools

 池澤夏樹氏も理系の学問(物理学)を修めていたということを初めて知った。優れた文学者の多くが理系にも関わっている気がする。「移ろうものを扱うのなら文学」と本著にあるけれど、移ろうものを文学で扱うために、前提として静的な分析をするための姿勢・方法論として、理系の思考回路が必要ということのような気がする。

 組織機能について記載されているところがむず痒かった。確かにゆるい結びつきのネットワーク型組織が、非常事態で有効に機能することはわかる。けれど、これにもデメリットがあるからピラミッド型を志向する訳で、それがなんなのかは明確に言葉にしないといけないなと思った。

続きを読む "『春を恨んだりはしない-震災をめぐって考えたこと』/池澤夏樹"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012/03/18

『乳と卵』/川上未映子

4163270108 乳と卵
川上 未映子
文藝春秋  2008-02-22

by G-Tools

 豊胸手術をもくろむ母・緑子と、自分の性を受け入れられない娘・緑子。緑子は言葉を話さず、日記には精子と卵子と乳。世の中の辛いこと悲しいことは生まれてくるからだから、自分は子どもは絶対産まない。お母さんは私を産んだから大変でも当然だと思ったけれどそんなお母さんも自分で生まれた訳じゃないんだからそれもお母さんのせいではないというところまで突き詰める緑子。そんな緑子は声を発さず筆談し、言葉で表せない言葉はないのか、言葉を言葉で表すと一周するんじゃないのかと電子辞書を繰る…。

 生命の輪廻と言葉の輪廻。ほんとのことはどこかにあるのかないのか。そんな根源的な話題をぎっしり詰め込みながら、母と娘が遂にぶつかり合うクライマックスでお互いではなく自分にぶつけあうのは生卵。もう徹底していて清々しい!

 この事の重大さは、「ほんとのとこ」は女性でないとわからないのだろうなと思ってはいますが、それを見透かしてか「言葉」という要素を哲学的に入れ込んでいるあたりがあざといくらい見事で、最後まで面白かったです。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012/03/10

『Sunny』/松本大洋

4091885578 Sunny 第1集 (IKKI COMIX)
松本 大洋
小学館  2011-08-30

by G-Tools

 松本大洋の作品について感想を書くのはとてもとても難しい。僕は松本大洋作品は大好きで、『ピンポン』も『鉄コン筋クリート』ももちろん大好きで、松本大洋作品のこの「ベタ」な感覚が大好きなんだけど、世間で松本大洋作品が人気があり好きだという人が多いのが、この「ベタ」な感覚のところなのかそうじゃないのか、そこがどうもよく分からないからです。僕にとっては松本大洋作品はかなり「どストレート」なシナリオで、初めて触れたときから、こういう率直に人の魂を揺さぶるようなストーリーが、そんなに世間で受けるもんなのか、どうにも腑に落ちなかったからです。これはやっぱり、高校生という青春時代をバブル期に過ごし、大学生になった途端バブルが弾けたこの世代独特の「捻くれた」感覚なのかなと思います。

 だから、アツく語れと言われればいくらでもアツく語れるくらい、松本大洋作品は大好きで、この『サニー』も、手にして帰った電車の中で一気に読んでしまったくらいです。作者の来歴は何も知らなかったのですが、ウェブの記事を読んで、作者自身も、この『サニー』が取り上げている「施設」で過ごした経験があると知って、やっぱりそういう体験がないとここまで鮮やかに描けないよな、と納得しました。「施設」で過ごす子どもたちの日々を描いた作品というものは、漫画だけでなく小説やTVドラマや映画やとたくさんありますが、そういういろんな形態で展開されてきた「施設物語」のパターンがすべて投げ込まれ反復されているだけのようで、全然違ったものとして胸に迫ってくるのはやっぱり松本大洋という作家の画風と演出の力だと思います。少し何かを振り返ってみたい気持ちのときに読んでみると、自分にはそういう過酷な経験がないと思っていても、何かシンクロするものがきっとあると思います。それは、松本大洋自身がウェブの記事で語ってましたが、施設の経験がない人間が、施設を過酷と思ってても、そこで過ごしている子どもたちは「意外としたたかにやっている」からかも、知れません。

感想もう一つ。http://tatsumi.posterous.com/sunny

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2012年2月 | トップページ | 2012年4月 »