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2012/03/20

『春を恨んだりはしない-震災をめぐって考えたこと』/池澤夏樹

4120042618 春を恨んだりはしない - 震災をめぐって考えたこと
池澤 夏樹 鷲尾 和彦
中央公論新社  2011-09-08

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 池澤夏樹氏も理系の学問(物理学)を修めていたということを初めて知った。優れた文学者の多くが理系にも関わっている気がする。「移ろうものを扱うのなら文学」と本著にあるけれど、移ろうものを文学で扱うために、前提として静的な分析をするための姿勢・方法論として、理系の思考回路が必要ということのような気がする。

 組織機能について記載されているところがむず痒かった。確かにゆるい結びつきのネットワーク型組織が、非常事態で有効に機能することはわかる。けれど、これにもデメリットがあるからピラミッド型を志向する訳で、それがなんなのかは明確に言葉にしないといけないなと思った。

p15「ホモ・サピエンスは言語の能力を手に入れた。それは共に暮らす仲間との意思疎通・情報交換のためのものだったから、最初から会話の形をしていた。しかし言語というものに習熟するうちに、仲間が誰もいないところでも頭の中から言葉が湧いて出ることに気づいた」
p17「ヴィスワヴァ・シンボルスカの「眺めとの別れ」」
p23「この話を聞きながらぼくは、大事なことはみなこのような細部から成っているのだと思った」
p49「これは重要な問題だ。自分で少し見てもう充分と思ってしまう。数と量の問題が抜け落ちる。数万人が亡くなったと言っても、それは数字としてしか認識されない」
p52「せっかくだから女川原子力発電所を見て行こう」
p60「加藤周一は『日本文学史序説』において、日本人はデカルトやヘーゲルのように精緻な論文による哲学は書かなかったがその代わりに文学の中で充分に思想を表現した、と書いた」「移ろうものを扱うのなら文学」
p61「他の地域の歴史を見れば、万事に対して人間は我々ほど淡泊ではないことがわかる。パレスティナ=イスラエルあたりの人々は三千年前の事件も忘れていないように思われる」
p62「先ほど桜について書いたとおり、ぼくは日本人のこの諦めのよさ、無常観、社会を人間の思想の産物と見なさない姿勢、をあまり好きではないと思ってきた。議論を経て意図的に社会を構築する西欧の姿勢に少しは学んだ方がいいと考えてきた。しかし、今回の震災を前にして、忘れる能力もまた大事だと思うようになった。なぜならば、地震と津波には責任の問いようがないから。」
p66「ゆるい結びつきというところではこれはSNSに似ていると思った。個人単位であり、任意であり、メンバーの間ではお金の授受がなくて、ただ人と人のつながりだけでなんとなくことが運ぶ。ピラミッド状の固い組織ではなく、ネットワークというかクラウドというか。ふわふわと漂っていてどうも頼りない。しかしそれがハードな組織の機能が損なわれた震災後の社会で威力を発揮している」
p71「中井久夫さんが書いている」
p71「人には職場が要る。これが、ボランティアと違ってお金が関わる現場で働いている者の目から見た真実」

p75「我々はどうも彼我の立つ位置を意識しすぎる」
p80「自分たちの船が被爆したことがアメリカ側に知られれば撃沈されて歴史から抹殺される」
p83「何かを隠そうとすればするほどそれが露わになる。形容詞の煉瓦を積めば積むほど、その後ろに何か見せたくないモノがあるとわかってしまう」
p89「この四月に環境省が発表した「再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査報告書」を見てみよう。そこには4億9651万キロワットという数字があった。現在の日本の発電設備容量はおよそ2億キロワットである。その二倍大きく上回る量が作れるというのだ」
p90「買取り量の上限が決められたRPS法ではなく、ドイツのように固定価格で全量買取りという制度であれば風力発電は速やかに広く全国に普及する」
p97「アレグロではなくモデラート・カンタービレの日々」
p107「災害が起こるといわゆる天譴論が横行する」

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