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2012/04/22

『日本は悪くない-悪いのはアメリカだ』/下村治

4167753669 日本は悪くない―悪いのはアメリカだ (文春文庫)
下村 治
文藝春秋  2009-01-09

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 未だにレーガンを信奉する日本人がいるのにちょっと驚いて、どこかのサテンで手に取った新聞の経済記事に偶然下村治氏と本著が紹介されていたのがあって、丁寧に読んだ。本著は1987年の著作だが、未来予測が含まれる経済書は、後から振り返ってみるとなんともバカバカしい気分になることが多いが、本著はわずかに「1ドルが百円にでもなったときであろう」という部分が外しているくらいで、驚くほど現在でも通用する内容だった。

 「借金帳消し」というやり方が出てきた「日本がアメリカに貸したカネは取り戻せない」という章が特に面白かった。ユーロ危機は負債の始末のつけ方だけど、日本人としての僕は、「ゼロ・サム理論」というか、「借りた金は返さなければ規律が保たれない」とか、そういう倫理的な価値観だけでこの問題を考えすぎているのではないかと思った。経済がなぜ行き詰るのか、その理由のひとつに、消費の膨張を止められないということがある。経済は常に成長を続けなければ必ず衰退してしまうものなのか、これがいちばん難しい命題なのだけど、行き詰った経済を立て直すのに、どういう方法があるのかという考え方の幅を広げてくれた。

 石油ショック後の経済成長の記述は、言わずもがなだけどどうしても東日本大震災を重ねてしまう。東日本大震災後、僕の目には、より自然災害に強い国になるための技術開発と、原子力発電の問題に端を発するより少ないリソースでの生き方の模索と、経済論理ではない人生の価値観の探求という、3つの新しい、身の入った動きがあるように映ってる。これらはいずれも、経済成長を最重要項目に置いた社会では取り上げようのなかった動きだと思う。自然というものは、人間にとって思い通りにならないものであるが故に思ってもみない災害を招くという事実に少しでも意義づけができるとしたら、こういうことなのかなと思った。

p30「ベンチャービジネスにしても、適当なところでもうけてあとは売ってしまおうと思っている」・・・これは現在では否定されるべきではないかもしれない
p35「すかさず、日本と西独が内需拡大をやれ、と問題を外部に持ってくる。」
p36「アイアコッカ」「すべてが始まったのは、供給重視の経済学を信奉する人々が主導権を握り、減税すれば歳入が急増し、財政を均衡させるばかりか、軍備増強もできると主張した時からである。うまい話に聞こえたが、唯一の問題は筋が通らなかったことである。・・・なぜ、レーガン大統領は均衡予算案を提出しないのか、私にはわからない。その試みすらしていない。しかし、レーガン政権だけを非難できない。議会も自己ぎまんというこの陰謀に大きく加担している。・・・われわれ(国民)もまた見て見ぬふりをしている」
p70「自動車問題になるとアメリカの言い分はもっと支離滅裂になる。」
p73「農産物はどうかなどと輸入障壁の問題が蒸し返されるかもしれない」「日本はアメリカに自動車をどんどん輸出せよ。自主規制はすべきではない。その代わり日本の市場を開放して、貿易のバランスがとれるようにすればよい」
p75「生産高の割りには人手を多く必要とする生産性の低い部門と、徹底的に合理化して相対的に人手をあまり必要としない生産性の高い部門の両極端の産業が成立するようになったのである。その結果として、今日の日本人の生活があるということができる」
p77「鉱工業生産指数のピークはいつかというと、昭和六十(1985)年四月だが、四~六月とそれにつづく七~九月を比べると、0.2パーセントほど低下している。さらに十~十二月は0.9パーセントのマイナス」「輸出が減少することによって設備投資が減少し、それが消費の停滞」
p93「基本的な状況がどうであるかを考えない」
p95「この一億二千万人は日本列島で生活するという運命」
p96「自由貿易主義の決定的な間違いは、国民経済の視点を欠いている」「こういう思想にとびつくととんでもないことになる、ということはチリが示している。この国は、フリードマンの、保護貿易はやめてしまえという主張に同調して、完全に自由貿易にしてしまった。ところがどうなったか。たちまち経済はメチャクチャになり、国全体が大騒ぎになった。」
p100「自由貿易とは・・・決して、申請にして犯すべからざる至上の価値ではない。強大国が弱小国を支配するための格好な手段」
p134「この乗数の大きさは、貯蓄率の逆数」
p141「中曽根首相は昭和六十一年四月十四日の日米首脳会談で、突然、今後は日本経済を輸入指向型に変えると言って、「国際協調のための経済構造調整研究会」(経構研)の勧告(前川リポート)」
p167「それは、1ドルが百円にでもなったときであろう。この水準までいけばお手上げになる」・・・ならなかった

p169「全体のために自分を制御するという気持ちが出て来ない」
p181「農民の生活維持の論理が政治を動かしているわけである」
p190「もしアメリカが日本よりもさらに強くなりそうな気配があるとすれば、日本から輸入している設備や部品を国内でつくるようになっていなければならない」・・・アジアでの生産
p197「石油ショックをきっかけにした省エネルギー、省資源の技術改良がかなり急速に進行したことである。日本で言うと鉄鋼、電力、セメントなどの産業が徹底的に脱石油と省エネルギーを推し進めた」
p202「したがって、最もスムーズな解決策は日本がある段階で貸金を帳消しにすること」

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