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2012/06/16

『PUBLIC 開かれたネットの価値を最大化せよ』/ジェフ・ジャービス

4140815132 パブリック―開かれたネットの価値を最大化せよ
ジェフ・ジャービス 小林 弘人
NHK出版  2011-11-23

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 「パブリック」を称揚するんだろうという先入観から行くと、プライバシーなど全く無くなってしまったほうが良いという論が展開されるものだと予想するけれど、本著はそんなに短絡的で浅い論ではなかった。平野敬一郎の『ドーン』を読んだ際、「ディビジュアル」という概念が出てきて、これはインディビジュアルと呼応した表現なんだけど、「人間はもともと1つの首尾一貫した顔だけを持つのではなく、社会のなかでさまざまな役割があるだけさまざまな顔を持つものであって、それが自然な人間の姿」として、そういうさまざまな顔の一つ一つを「ディビジュアル」と名付けてた。本著における「プライバシー」と「パブリック」の対概念は、この「ディビジュアル」を思い起こさせた。ただ一つの公共圏と、個人がそれぞれに作る無数の公共圏。そして、何をどこまで公共圏に含めるかは個々人の判断で、その行為が「シェア」である。ただ一つの公共圏と個人それぞれの無数の公共圏というのは、正にディビジュアルの考え方。そして、ディビジュアルをディビジュアル足らしめる行動を、本著では「シェア」だと言ってるんだけど、確かにシェアがなければ公共圏を形成できないけれど、「シェア」だけだとするとアクティブに関わることだけが「圏」を形成することになる。これはすっきりする考え方ではあるけれど、「圏」にはパッシブに影響するものもあることは否定できないし、忘れてはいけないと思う。
 「パブリック」というのはシェアであり、つまり「公開」することからは決して切り離されないとしたら、パブリックというのは不可逆的であると言っていいと思う。だから、著者は「データ保護の4つの柱」に喰ってかかっている。一旦公開されたものはなかったことにはできない。それは確かにそうだけど、技術的なことを言えば、人々の記憶に残ることと、某かの媒体に残ることとは区別すべき問題だと思う。人々が知ってしまったことをなかったことにはできないとしても、ログを削除可能であることは、パブリックに取って必要不可欠なことだと思う。10年前の自分は今の自分とは違う、だから生まれたときの自分と今の自分とはもはや同じ自分ではない、だから「私」の同一性は何をもって保証されるのかと問うと、過去の「私」の痕跡がログに存在していることは、現在の「私」のパブリックの必要条件ではない、と言えると思うからだ。

p12「僕の人生は、オープンな物語」
p14「マイケル・ワーナーも、『公共性と反公共性』のなかで、「ほとんどのものはある面で私的であり、別の面では好適である」
p32「生まれもった楽観主義だ。正しい人が正しい道具と力をもてば、世界はますます良くなる」
p32「誰もが無名だったからこそ膨大なプライバシーが存在した」「人は生産者か消費者かのどちらかでした。そのふたつがはっきりと分かれた社会、ある意味で自然に反する社会」
p46「プライバシーを訴える権利があるために、してはいけない行動が助長されているかもしれない」
p63「僕が閲覧履歴を公開したくないのはなぜか?相手に文脈(コンテクスト)がわからないからだ」
p82「自らを他社に打ち明けることは、それ自体道徳的な善だ」とリチャード・セネットは『公共性の喪失』のなかで言う」
p88「なんでもネットのおかげ説」
p114「多くの顔をもつパブリックという姿」「公共圏(ただひとつのパブリック)と個人がつくる公共の領域(無数に生み出される僕らのパブリック)を分けようとする過程で、この進化がおのずと起きている。僕らは<パブリック>のあり方を再定義しているのだ」
p125「「グーテンベルグの活版印刷が世界を埋め尽くすにつれ、人間の声は聞こえなくなった」とマクルーハンは主張する」
p143「パトリシア・メイヤースパックス」「彼女はプライバシーを選択の問題と考える」
p153「プライバシーの方程式のなかに別の要素を取り入れようとしている。それは、文脈(コンテクスト)だ。なぜ、どこで、どのように情報をシェアするか」
p164「コンテクストはわかりにくく、意図を察することも難しいが、理解するよう努力すべきだ」
p185「彼女はシェアし続ける。なぜ?「家賃を払わなくちゃいけないから」。これに生活がかかっている。」

p203「不安をかきたてて資金を調達するプライバシー擁護団体」
p215「この結果から、それらがダウ・ジョーンズ工業平均株価の動きを87.6パーセントの精度で正しく予測できることがわかった」
p220「こうしたサービスを利用して起きる最悪のことは、気分を損なうことだ。「仲間から取り残された」気分や、人間関係(ソーシャルグラフ)にはつきものの気まずさといったものだ」
p222「僕らがどうつながっているかを、誰が知り、誰が気にしているのだろう?僕らだけだ。モバイルは地域を意味するようになり、地域は自分の周りを意味するようになる。それはつながり続けることのもうひとつの手段にすぎない」
p228「ひとつは利益を圧迫する価格の透明性。もうひとつは在庫を数か所に統合することで得られる、オンライン業者の効率性。これが営業費用を下げ、在庫や不動産のための資本を軽減する」
p231「ジョッシュ・ハリス」
p264「著作権を延長したり、公正使用(フェアユース)の原則を無視して新規参入者を妨害しようとする企業も多い」
p265「セス・ゴーディンが目指しているモデル」
p271「ビジネスの焦点は、ハードウェアからコンテンツやサービスに映るだろう」・・・誰がハードウェアを創る?
p280「政府の余りにも多くの部分が原則非公開であり、外圧がなければパブリックにならない」
p284「政府契約と助成金のデータベースをつくるための法案が匿名の上院議員によって差し止められた」
p294「アメリカの<ティーパーティ>は、新しいツールを使ってパブリックを組織するムーブメントと見られがちだが、それは大切なポイントを見落としている。それはどちらかといえばラジオのトーク番組とFOXニュースの力によってつくられたものだ」「マスメディアの落とし子」「それがトップダウンの政治的な構造ではなく、むしろネットワークであることだ」
p303「ヴィヴィアン・レディングが2011年に提案した、<データ保護の四つの柱>」
p326「バーキャンプ」

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