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2012/10/28

『メモリー・ウォール』/アンソニー・ドーア

4105900927 メモリー・ウォール (新潮クレスト・ブックス)
アンソニー ドーア Anthony Doerr
新潮社  2011-10

by G-Tools

『メモリー・ウォール』
 認知症と化石の対比がとても鮮やか。リタイアした後、元来の化石発掘に熱中したハロルドは、妻アルマに「この世で唯一変わらないことは、変化するということ」「別のものに変わらないのはとても珍しいこと」と、化石の魅力を語る。その夫ハロルドを亡くした妻アルマは認知症を発症し、その進行を遅らせるべく、遠隔記憶刺激装置を処置される。記憶を、カートリッジに取り出して保存し、好きな時にカートリッジを挿入してその記憶を参照できる。

僕は人よりもたぶん、記憶力がよくないと思っている。自分では別に、憶えることをさぼっているつもりはない。覚えなければと言う意識が低いつもりもない。それでも、固有名詞を覚えるのが特に苦手だし、昨日食べたご飯を覚えていなかったりする。それは、できれば覚えていたくない出来事が多かった時代があって、なるべく忘れようとする志向を脳が持ってしまったんだと勝手に自分で解釈している。

アルマにとって最も辛い記憶-ハロルドを亡くしたときの記憶-が、巡り巡ってアルマの使用人だったフェコとその子供を救う。もし、その記憶が、アルマにとってだけのものだったなら。それはカートリッジで他人の記憶を見ることもできないのだから、と様々な推測をしてしまうが、それよりも、認知症によって、アルマは最後、一緒に暮らす男がいたのだけれど、男は私をここ(施設)にひとりぼっちでおいていった、としか思い出せなくなりつつ、そういうふうに思い出すに留まっているところ。カートリッジという化石を、それが何なのかさえ思い出せなくなったことが、アルマにとって幸福なのだと信じたい。

p23「会計士はブリーフケースを手に取って帰る」
p41「ゴルゴノプス・ロンギフロンス」
p44「ロジャーとルヴォには、壁は同じような効果をもたらさない。ルヴォは、どうすれば壁から求めるものを得られるかわからない」
p55「アルマはまっすぐ前を向き、キッチンの窓の外の暗がりから、なにか恐ろしいものがやってくるのを感じる」
p96「とても珍しいことなんだ、とルヴォは考える。保存されるのは、消されず、壊されず、別のものに変わらないのは、まれなことなんだ」
p112「もしかしたらさっきの歌をまた最初から歌っているのかもしれないが、アルマにはよくわからない。クゾ・インジンゴ・ザロマーバ、と彼女は歌う。アマンダ・ノコロ、ウコロ・クウェ」

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