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2013/05/05

『地図になかった世界』/エドワード・P・ジョーンズ

456009019X 地図になかった世界 (エクス・リブリス)
エドワード P ジョーンズ 小澤 英実
白水社  2011-12-21

by G-Tools

 奴隷制度が存在している南北戦争以前のヴァージニア州マンチェスター群が舞台ということで、奴隷制度の不条理や非人間性に焦点が当てられているのかと思いきや、読んでいると奴隷制度への抵抗が荒々しく胸に燃え上がるような感じではなく、逆に、登場人物たちがみなあまりにも「奴隷制度」を当たり前のものとして生きているので、その制度枠の中でどうやって生きていくのか、という視点で読み進めることになる。奴隷制度に対する批判といった、お説教なところはほとんどない。悪事を働いた人物がストレートに懲らしめられるような展開でもない。でも、奴隷制度下の親子世代に渡る長いタイムスパンが、大河ドラマのように展開していく。
 いちばん印象に残るのは、何度も「法律」が登場するところ。奴隷制度が登場人物にとって当然なのは、法律がそう定めているからだ。だから「法律」は絶対で、登場人物はみな「法律」の順守に強い意識がある。日本はこういう感覚が凄く薄い気がする。法律であっても、皆であつまって決めたことでも、簡単に破る傾向にあると思う。「決め事」に対するこの感覚の違いは、日本式のほうが分が悪いと思う。
 後半で自由黒人の奴隷であるモーゼズが「自由」に対して執着するところが、奴隷制度への不条理感を炙り出す。それでも、それも世界の一コマ、という描かれ方が貫かれるところが、この小説のスケールの大きさだと思う。

p54「奴隷制は、聖書のいたるところで神ご自身でさえ認めている。神の法とカイザルが司る現実社会の法とを分けて考えることがいかに心の負担を軽くするかを、彼は父親から学んだ。」
p76「自分が知っているどんな白人の男よりもいい主人でいたいとヘンリーはいつも言っていた」
p127「ハンサムで、何ごとにも動じない人間に落ち着く前の段階です」
p140「法律はおまえのところにやって来て、おまえの後ろに立つだろう。だが、おまえが自分の奴隷と転げ回って遊んでいて、奴隷が態度を変えて噛みついてきたとしたらどうなるか」
p143「だが彼らがさらに嫌うのは、塵からどれほど高い場所に引き上げてもらったかを正しく理解しない者だった」
p157「白人がやらないようなことは何もやってない。法に触れるようなことはやってない」
p198「見出しの説明には「知られている世界」という言葉が書かれていた」
p308「彼女を膝の上に乗せ、彼女はそれを拒まなかった」
p335「モーゼズ、あたしらと一緒には来られないのかい」
p344「誰かがこういうことを言おうとしたときにはな、黒んぼの側に立ってるなんてことを言われねえでも言える方法がなきゃいけないんだよ。人ってのは、何か・・・何か光みてえなものの下に立っていられるべきなんだ。」
p348「法律は気にかけているよ」
p404「「ポーランドのことは忘れるんだ」と男は詩人に宛てた手紙に書いた。「私の持っている地図じゃ、そんなところは見つかりもしない」」
p420「彼は黒人だったが、ただの黒人ではなくウィリアム・ロビンズがつくった黒人であり、それゆえに特別な存在だということは、白人たちやオーデンら全員が理解していた」
p428「夢見がちな州知事補佐官が書いた心からの謝罪の手紙だけだった」

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