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2013/09/23

『ヒプノタイジング・マリア』/リチャード・バック 天野惠梨香訳

4839701555 ヒプノタイジング・マリア
リチャード・バック 和田穹男
めるくまーる  2013-08-15

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 『かもめのジョナサン』のリチャード・バックの最新作、よしもとばななの推薦文、ということで飛びついて買ったのですが、読んでいる最中にあらましわかってしまうし、あまり高揚感なく読み終えてしまいました。一言で言うと、『ジ・アービンガー・インスティチュートの”箱”』の小説版、という感じです。

 「ヒプノタイジング」とは催眠術。自分の人生そのものも、催眠術に掛けられているようなもので、繰り返し繰り返しやってくる暗示を受け入れたり否定したりしながら生きている。だから、肯定的な暗示を選び、自分で肯定的な暗示を発し、否定的な暗示は捨て去るようにすれば、人生は肯定的なことばかり起きるようになる。この存在は「魂(スピリット)」なのだから、すべての制限は「思い込み」=否定的な暗示に自分を掛けているだけで、死んだとしてもそこで自分が終わるわけではない。それさえも否定的な暗示に過ぎない。

 という、唯心論的な教義を、読者の心になるべく効果的に嘘くさくなく落とし込めるように物語が描かれていますが、そうは言ってもどうしたって嘘くさいと思う。これは一種の「最善の事例」であって、これを読んで「よし、じゃあ私も今日から肯定的な暗示ばかりを選んでいこう」というふうに奮い立つ人は少ないと思うし、一方でジェイミーが体験した不思議な成り行きにココロ震わす人もいないと思う。この小説はストーリーを魅せるというよりも「経典」的な性格を強く負わせて書かれていると思うし、アメリカの小説にはこういう「経典」タイプがジャンルとして確立してるよなと思う。

 肯定的に考えるという姿勢自体は全然否定しないけれど、こういう講釈をつけられた上でその姿勢を取るのはなんか疲れてしまわないか?といつも思います。日本人はやっぱりそういう講釈の裏付けで動くのが苦手なのかも、と自分を振り返ってみて思ったり。

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2013/09/16

『文・堺雅人』/堺雅人

4167838710 文・堺雅人 (文春文庫)
堺 雅人
文藝春秋  2013-07-10

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 「堺雅人は鞄に原稿を書くための道具を入れて、持ち歩いている」と背表紙にあったので、もっと思索の密度の濃い文章を想像していたら、起承転結の意識がしっかりしたきちんとした「コラム」だったのでちょっと肩すかしでした。もっと、結論の出ない苦悩感のある文章かと思ってました。

 雑誌の連載ということで、最初の方はまだ書き馴れていないからなのか、丁寧な構成だけれどもそれほど目新しくない内容かな、という印象でしたが、全体の半分を過ぎたころ、『ジャージの二人』の話題が出てくるあたりから深みが増してきて面白かったです。更に後半、『篤姫』が出てくるあたりになってより深くなって、俳優さんはやっぱりその時手掛けているお仕事によって密度が変わるのだなあと改めて思いました。
 特に興味深かったのは2点、ひとつは長嶋有との対談で男女同権について触れているところについて。堺雅人は5歳くらい年下という印象なんですが実際は1歳違いなのでほぼ同世代、その彼が男女同権について、男性という側から男女同権を実行しようとすると、必ず困難が付きまとうと言っているところ。実際のところ、「男女同権」と言っている女性も、実は「同権」なんて求めていないのではないか、もしくは「同権」ということがわかっていないのではないか。ここはこの本を読んだ人にはみなちゃんとそう読み解いてほしい。
 もうひとつはコトバについて、「僕のなかには東京コトバでうまくいいあらわせないなにかがあるのだが、僕のさびついて宮崎コトバではもうそれは表現できない」と言っているところと、「本来コトバのうらにあるはずの動機(といって大袈裟なら、そのコトバがでてくるまでのココロのうごき)が追いつかなくなってくる」と言っているところ。自分の思っていることを自分の思っているように”話し”コトバで表せない、という悩みは常に深くある。僕の場合、それはもしかして、関西弁としてほとんど同じようで実は微妙に違う奈良弁と伊賀弁の差にあるのではないかと思うことがあったり、よどみなく話せるようになったことの裏側では、話したいというココロのうごきが衰えてしまっているというような話。これについて語っている部分は、丁寧に書いていらっしゃるなあととても感動しました。

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