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2014/01/01

『ペテロの葬列』/宮部みゆき

ペテロの葬列
ペテロの葬列 宮部 みゆき

集英社  2013-12-20
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久し振りのミステリーでしたが、帯の『”悪”は伝染する』に惹かれて、ドロドロした性悪な人間性の応酬みたいのを期待していたもののそれはそこまでではなかったです。本筋の事件での顛末よりも、主人公の杉村夫婦の動静に最も心を持って行かれます。

「世直し」という言葉を頻繁に使う、という会社社長が登場するのだけれど、時流を捉えた言葉というのは、その背景に目を瞑らせるというか気にさせなくするというか、詳しい説明を省略させるだけの力を持ってしまうという怖い事実を改めて思いました。よい意味ではそれが「信用」なのだけれど、背景や裏付けを全く聞かず、バズワードとか流行の三文字略語とか、その単語だけを振り回してしまうことの怖さ。でも世の中時間がないから、それだけで事が進んでしまう怖さ。それは、「言葉そのものが価値を持つ」という考えを無意識に支持しているから起きてしまうことで、やはり先日読んだ池田晶子の中の「言葉は交換価値ではなく価値そのもの」という定義は否定されなければならない、と強く思いました。それは、「とりわけ、多くの人たちがもてはやしているという理由だけで流行っているものには」という杉村の台詞からも感じます。

もうひとつ、会社にせよ軍隊にせよ、抗えない環境が構築されそこに囚われたとき、人間はどうなってしまうのか、どう行動するのが正しいのか、ということを考えさせられます。「この理念こそが正しいのだ」という思想的な動機であっても、「こうすることが儲かるのだ」という金銭的な動機であっても、受ける傷はそう変わりません。もっと悲劇的なのは、タイトルにあるペテロのように、途中で良心の呵責か何かでその道を引き返そうとしたとき、そこで行いの罪が現前してしまうことで、引き返そうとしなければそんな罪もそれに対する罰も受けずに済んだのにーということです。これに対して本著がどういう答えを導いてくれているのかは、ひとつではないので、この答えを考えながら読んでみるのがオススメです。

p138「最初に感じたのは疎外感だった」

p299「会長は流行ものはお嫌いでしょう。とりわけ、多くの人たちがもてはやしているという理由だけで流行っているものは」
p300「さっき君が言ったように、その点で軍隊と似ている。初年兵をいたぶる上等兵は、ただ自分が上等兵ということだけで、規律保持と訓練を名目に、それ以前の平穏な日常生活のなかでは本人自身も気づくことのなかった獣性を解放することができた」
p351「FDA、アメリカ食品薬品局」
p353「「世直し」が小羽父子シンパのキーワード」
p356「現実を生きる我々は、<一つの指輪>を持ってはいない。だが、その代替物なら得ることができる。それは誤った信念であり、欲望であり、それを他者に伝える言葉だ」
p388「詐欺まがいのことをやる会社に勤めてて、知ってて加担してるなら、そこの社員だって詐欺師みたいなものです」
p401「ペテロがもっと臆病な人だったら、嘘をつかずに済んだのよね。勇気と信念があったばかりに、恥に苦しむことになった。正しい人だったからこそ、罪を負った」
p438「絆を断つ痛みには弱くなった」
p476「特別な場合だったから」
p488「ありそうな話ですね。頭のいい詐欺師は、相手が大きな組織であればあるほど、一度に大勢の人間を相手にしません。急所だけ抑えるもんです」
p523「何らかの形で<人に教える>ということだ」
p545「自分たちも加害者になってたんだって自覚しない人たちが残ってしまう。それじゃ何も変わらないのよ」
p565「そうーそして私は、駐車場の隅にとめてある、赤い自転車に気づいたのだ。レストランの従業員のものだろう。」「あれで走りたい、と思った」
p630「それを私は、自分が我慢して諦めているのだと思ってきた。実は我慢でも諦めでもなく、私はただ楽な方を選んだだけだった。そのくせ、自分の我慢と諦念に、なにがしかの対価があってもいいじゃないかと、無意識に思ってきたのだ。それが、甘えの正体だ」
p674「あれくらいの歳の子供でも、両親の離婚が世界の終わりに等しいわけではないと思うくらいの客観性を身につけている。我々の社会がそこまで成熟したのか、退廃したのか、どっちだろうか」

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