『時間資本主義の到来: あなたの時間価値はどこまで高められるか?』/松岡真宏
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時間資本主義の到来: あなたの時間価値はどこまで高められるか? 松岡 真宏 草思社 2014-11-20 by G-Tools |
ITの浸透と進化によって、従来大きな価値を持ちえなかった「すきま時間」が価値を持てるようになった結果、今後、「時間」の価値がこれまで以上に大きくなる、それを「時間資本主義」と呼んで議論を展開しているのが本著。
「時間資本主義」という視点は薄々問題意識として持っていて、考えを深めることができていいタイミングで読めた。一方、このタイプの日本の書籍は大体、「サプライサイドの視点」-ビジネスを行う側が、時流をどう捉えれば今後自分たちは稼いでいけるのか、という視点で書かれていて、そういう時流となった結果、どのようなスタンスを取れば「社会」がより良くなるか、という視点がなく、本著も(時間資本主義で個人はどうふるまうべきかは書かれてはいるものの)あまりその視点はないところが残念。そのあたり、やはり先日読んだ『つながりっぱなしの日常を生きる』などは違うと改めて思う。
時間の使い方について、「効率化」という視点ではなく、「どれだけ自分が使いたいものに使える時間があるか」という視点。なので、従来からの富裕層はともかく、ホワイトカラーの高給層は今後そのポジションの維持のために「すきま時間」もすべて注ぎ込むことになり、「自分が使いたいもの」に使えないため生活の満足度は低下し、一方、現在のところ低所得者層と言われている層は、収入は少ないかも知れないが、「自分が使いたいもの」に使える時間は多いため満足度は高くなる。大雑把に言うと自分の理解はこのように纏まる。
問題意識は2点:
- 公平性に関して。p97「銀行や市役所の窓口だって同じではないだろうか。あるいは病院の窓口も同様かもしれない。」「時間ごとにこの重要なパラメーターを合理的にいじることで、個々人の満足度を引き上げ、ひいては社会全体の厚生を引き上げることが可能になる」とあるが、特に福祉に関しては「格差」について慎重にならなければならないと思う。時間は再配分できないので、支払う額によって窓口対応のレスポンスに差をつけるというのは賛成できない。
- ユニクロとバーニーズが引き合いに出され、富裕層は時間の重要性を理解しているので、定番品については選択する時間を極小化するために間違いのないユニクロを購入しているし、そのように決してユニクロは格差の象徴ではないと書かれているが(p114)、ユニクロとバーニーズ双方を楽しむ富裕層はいても、バーニーズを楽しむ低所得者層はいないので、この推論には問題がある。ただ、低所得者層でも月額1万円近く通信費に出費したり、高級ブランドに出費したりすることは確かになるので、そういう意味では格差が二極という捉え方が間違っているのかもしれない。低所得者層の中でも格差がある。
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