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2015/09/06

『ロジ・コミックス ラッセルとめぐる論理哲学入門』/アポストロス・ドクシアディス,クリストス・パパディミトリウ,アレコス・パパダトス,アニー・ディ・ドンナ

448084306X ロジ・コミックス: ラッセルとめぐる論理哲学入門 (単行本)
アポストロス ドクシアディス クリストス パパディミトリウ アレコス パパダトス アニー ディ・ドンナ 高村 夏輝
筑摩書房  2015-07-23


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 「論理で世界を理解することはできないかもしれない。それでも論理は人間が世界と向き合うための、最も強力な道具である」。ラッセルが科学という論理に一度絶望しているからこそ、この言葉に力強さが籠るのだと思う。ラッセルはラッセルのパラドックスによってフレーゲに対して、そのラッセル(直接にはフォン・ノイマン)はゲーデルの不完全性定理によって、そして弟子のウィトゲンシュタインは戦場という極限状態によって、論理に絶望する。とりわけ不完全性定理と、ウィトゲンシュタインが戦場で至った境地ー「世界の意味は、世界の内にしか存在しない」の共通性は、こうやって書くだけで自分も絶望の淵に成すすべなく落ちてしまいそう。もちろんここにはラッセルのパラドックスも連想させるものもある。

 どんな体系をもってしても、必然的に不完全であり、解答不可能な問題が必ず存在する。日常の生活に照らし合わせてみればこんな当たり前のことはないのに、論理の上での話になるとこれほど絶望を感じるのは、人は論理にそれほどまでの力を期待してやまないということなのか。しかし、既に「解答不可能な問題が必ず存在する」とすでに発見された後の世界に住んでいる我々は、「それでも論理は人間が世界に向き合うための、最も強力な道具である」という言葉を忘れずに生きていかないといけない。

 もう一つ、本著で学べたことが、アメリカの「孤立主義」。1939年、アメリカ国民は世界大戦への参戦に反対する国民が大多数だったということ。本著での言葉ではあるけれど、国民が持つプラカードのひとつに、「やるべきことは国内にある」「国外で死ぬのはごめんだ」と書かれている。この姿勢は、現代日本で安保法案に反対する姿勢と、類似すると見ることもできる。

 現実にはアメリカは参戦し、戦後は世界の警察の役割を自任するようになり、その役割から降りようとしているのが現在言われていること。本著ではアメリカ国民が「孤立主義」であったその当時、ラッセルが公演において、ナチと戦うためにアメリカに参戦を呼びかけるような演説をしたと描かれている。

だがこれだけは申し上げておきたい、この部屋にいる皆さんと同様、私も懸命に平和主義者でいようと努めています。しかし、ヒトラーとスターリンに欧州を支配されるのは、どうしても耐え難い!

 現代において、ヒトラーとスターリンに匹敵するような脅威が存在している、または出現する可能性があるということで、積極的に海外に軍事力を展開可能とする、ということを、本著のラッセルの演説から導けるのか?本著はこれに対してラッセルにこう答えさせている:

あなたの答えは?

p17「アメリカ人の多くが”孤立主義”を掲げ、米政府が欧州の戦争に参戦することに反対運動を起こしていた」「そこには色々な人々がいた。共産党員からナチスのシンパ、平和主義の理想化から一般市民まで、あらゆる層が大戦の帰趨に関心を寄せていた」

p239「1914年8月4日、私はトラファルガー広場の平和集会に出席していた」「英国がドイツに宣戦布告」「その時私は、恐るべき奇跡を目にした」「にわかに、戦争という新しい事実を祝いだした!」「その時私は誰にも劣らず、ドイツの敗北を強く願ったのだ」
p248「この世界に意味はありうるのか?」「これが実在の大きな不都合の一つだ。間近で見るのと”映像”は全くちがう」「この違いは理論では説明できない」「死と向き合った時、ウィトゲンシュタインは根源的な洞察に達した」「世界の意味は、世界の内には存在しない!」『深淵の淵に立たされ、想像を絶する出来事に遭遇すると、人は神秘主義者か狂人になる・・・」「この両者はおそらく同じものなのだ!」
p289「彼との議論は常に騒ぎと怒りを呼んだが、幸いウィトゲンシュタインは暴力に訴えることはなかった」

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