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2015/12/06

『服従』/ミシェル・ウェルベック

4309206786 服従
ミシェル ウエルベック 佐藤優
河出書房新社  2015-09-11

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今年の始め、「今年は宗教について読まなければいけない」と思い、大して読めないまま、今年最後の読書になるかもしれないと思う『服従』が強烈に宗教(と政治)を考えさせる一冊だった。

2017年(以降?)のフランスで、イスラーム同胞党が与党となり、フランスがイスラームの国へと変容する。そこに至るのは、極右政党国民戦線が得票率首位の中、UMP・民主独立連合・社会党が「拡大共和戦線」を立ち上げ、イスラーム同胞党を支持し、イスラーム同胞党が大統領を輩出する、という流れ。つまり、極右とイスラーム、どちらを「否定」すべきか、という問いの答えとして、「イスラーム」が選ばれたのだ。イスラームの政策主張は一点、教育に関してだった。

男尊女卑、一夫多妻、貧富の差拡大、家族主義。そして何より大学はイスラーム信者でなければならない。みないわゆる「前近代的」なイメージがするのに、登場人物はみなそのイスラーム化したフランスに不都合を感じているようではない。これでいいではないか、と言わんばかり。もちろん世界にはイスラームの教えに則って運営されている国があり、その国の国民が文字通り「不自由」で不幸な生活なのかと言うとけしてそうとばかりは言えず、豊かとは言えずとも心満ち足りた生活を送っていることだってあり得るだろう。であれば、フランスだってイスラームを選択しても何らおかしくはない、ということ。そこには「貧富の差が拡大」するという、為政者がそうだと認める事象があるけれども、行ってみれば人間中心主義の近代ヨーロッパにしても、芸術文化の力を開花させることができたのはそのシステムの中での著しい富の集中だった。であれば、貧富の差が拡大する社会の中にあっても、貧困層が不満を感じないシステムのほうがより優れたシステムではないのか。

しかしそれは「服従」が可能にするシステムだ。「服従」はなんら問題を孕まない姿勢なのか。それはかつての極右の変形を新たに生産することはないのだろうか。11/13の日経ビジネスオンラインの「ア・ピース・オブ・警句」の「安倍政権支持率回復の理由」で、”具体的には、「自分でない誰か」に決断を丸投げにしたい欲望を抱いたということだ。”という一文を読んだところだった。

p65「武装蜂起を準備せよ」「宗教を信じることには人生の選択をする上で有利な点がある」「無神論者の人間中心主義と、それに立脚する、世俗主義の『共に生きる』という思想は、短命を運命づけられている」→春樹『雑文集』の「アンダーグラウンド」「A2」

p78「イスラーム同胞党」が「全面的な同意を取り付けたい点は、子どもの教育」
p108「今では、カップルが家庭を持つのは五十歳か六十歳になってからがふさわしい」
p113「主催者たちによると、参加者は二百万人」「警察発表では三十万人」
p120「理論的には自分が国民であるこの国を、本当の意味で探訪したことはなかったのだ」
p148「彼らが何より怖れ憎んでいるのはカトリックではなく、世俗主義、政教分離、無神論者たちの物質主義」
p151「湾岸諸国は、アメリカの立場に同調すればかなりの侮辱を耐え忍ぶことになりますし、常に、アラブ人一般の世論とは合わない立ち位置に置かれるので、イスラエルとそれほど組織的に結びついていないヨーロッパを同盟国とすることは悪くない政治的選択だと考え始めるでしょう」
p192「小学校学業修了証書を、教育の終了を示すものとする二十世紀初頭の制度が復活」
p202「「家族という温かな単位の枠」は、この段階ではまだ大部分が「カリキュラム」だったが、より具体的に、政府予算の新しいプロジェクトは三年にわたって国の社会的支出を85パーセント減らすことを予定していた」
p246「2013年3月30日」
p251「『O嬢の物語』にあるのは、服従です。人間の絶対的な幸福が服従にあるということは、それ以前にこれだけの力を持って表明されたことがなかった」「女性が男性に完全に服従することと、イスラームが目的としているように、人間が神に服従することの間には関係がある」「イスラームにとっては、反対に神による創生は完全であり、それは完全な傑作」
p262「もう一本の論文では、彼は、富の極度に不公平な分配に賛成であるときっぱり述べていた。いわゆる貧困は本来のイスラーム社会からは排斥されるべきだが、貧困は、質素な生活を送る多くの大衆と、あらゆる贅沢を享受するごく一部の金持ちの間の大きな隔たりを維持するのに貢献している。それらの金持ちは十分に裕福な故に、過剰で常軌を逸した消費に身を任せることができ、それが、豪奢な文化、豊かな芸術を育成し、支援することにつながるのだ」

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