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2020/06/22

『身銭を切れ』/ナシーム・ニコラス・タレブ

「身銭を切れ」というよりも「身銭を切らないヤツを信じるな」という忠告、というのがいちばん近いと思う。『反脆弱性』も難しかったけれどこの『身銭を切れ』の難しさはあれとはまた異質・・・『反脆弱性』は超複雑な方程式をこつこつ解いて理解する感じで、『身銭を切れ』は古文書を読解してる感じ。なんでそうなるのか?というのがただ読むだけではわからない箇所がかなりあった。そんな中、印象的だったのは宗教に関する章。宗教の果たしている役割を、果たしている役割そのものから説明する箇所は自分の感覚とぴったりあった。「宗教」と一括にしているけれどそれぞれ出自を考えると全く性質の異なるものだし、にも関わらず理由や説明でなくて人々にリスクを回避させる教えになっているという解説。そして、リスクは事象の大きさと起こりやすさで考えなくてはいけない。

p403

「チェルノフ限界は次のように説明できる。浴槽で溺死するアメリカ人の数が、来年2倍になる確率 は、人口や浴槽に変化がないと仮定すると、宇宙の一生の数兆倍に1回というレベルだ。しかし、テ 口の犠牲者数が来年2倍になる確率については、同じことはいえない。

ところが、ジャーナリストや社会科学者たちは、そうしたナンセンスを信じてしまう病的な傾向が ある。特に、回帰分析やグラフが問題と向きあう高度な方法だと思いこんでいる連中は、罠に陥りや 「すい。単純な話、彼らが使い方を身につけているのは、月並みの国専用の道具なのだ。だから、エボ ラ出血熱の死者よりも、モデルのキム・カーダシアンと寝たアメリカ市民のほうがよっぽど多いと

て圧死した人のほうが多いとかいう支離滅裂な見出しが次から次へと飛び

知恵があれば、こんな主張はてんででたらめだとわかる。 よくよく考えてほしい。10億人がキム・カーダシアンと寝るのは不可能だ(いくら彼女でも)。だ が、何らかの増殖的なプロセス(世界的流行)によって10億人がエボラ出血熱で死ぬ確率はゼロでは ない。また、テロのように、それ自体は増殖的な出来事でなくても、水道に毒物を混入させるなどし て極端な数の死者が出る確率はある。

p373

バイアスとばらつきのトレードオフの図解。ふたりの(素面の)人間が、たと

えばテキサス州で的に向かって銃を撃つとしよう。左の人はバイアス(つまり、 システム的な“誤差”)があるが、全体的に見れば、右の人よりも的の中心近く に弾を命中させている。右の人は、システム的なバイアスこそないが弾のはら つきが大きい。一般的に、バイアスとばらつきの一方を増加させることなくも う一方を減少させることはできない。脆い状況では、左の人の戦略のほうが優 れている。的をはずれると危険な場合、破滅と常に一定の距離を保つほうがい

いのだ。よって、飛行機の墜落事故の確率を最小にしたいのであれば、ばらつ |きが小さく抑えられるような類のミスは罰する必要がないとわかる。

p339
要は、データにないものを考慮することが重要なのだ。記録のなかにブラック・スワン が存在しないからといって、そこにブラック・スワン自体が存在しなかったことにはならない。その 「記録が不十分なのであり、そうした非対称性を恒久的に分析のなかに含めるべきだ。

p294
ネパールから戻ってきたばかりのカンザスシティの不動産ディベロッパーの妻と、バリでの休幅 から戻ってきたばかりのワシントンDCのロビイストとのあいだに挟まれて、2時間も座りつづける なんて胃が痛くなる

p255

呪いとしての賞について。長年、トレーダーのあいだには、ジャーナリストの称賛は逆にとらえたほうがいいという信 念がある。私はそれを手痛い形で学んだ。1983年、私がトレーダーになる直前、大手コンピューター企業のIBM が、当時のアメリカの有力誌『ビジネスウィーク』の表紙で究極の企業として取り上げられた。愚かにも、私は大急ぎ でIBMの株を買い、ひどい目に遭った。そのときふと、IBMの株を空売りすれば株価の下落で儲かるはずだと思い つき、とっさに反対売買を行った。この経験で、ジャーナリストたちによる万歳の合唱は、少なくとも怪しく、最悪の 場合には呪いであるということを学んだ。その後、IBMは5年ほど停滞の一途をたどり、破産しかけた。それから、 栄誉や賞というものはなるだけ避けるべきだということも学んだ。ひとつに、間違った審判から与えられる栄誉や賞と いうのは、ここぞというときに痛手になる可能性が高いからだ(それなら、無視されるか、メディアに嫌われるほうが いい)。レストラン・ビジネスに投資している元トレーダーのブライアン・ヒンチクリフは、次の経験則を教えてくれ た。"最高"の○○(最高の雰囲気、最高のウェイター・サービス、最高の発酵ヨーグルト、最高のシャイフ向けノン アルコール飲料など)という賞をもらった店は、授賞式を待たずして閉店する。経験則として、ある作家を数世代先ま で読み継がせたいなら、ノーベル文学賞とかいう賞は絶対に与えないほうがいい。

p221
フレデリック・ダール、アンティオキアのリバニオス、マイケル・オークショット、ジョン・グレ イ、アンミアメス・マルケリヌス、イブン・バットゥータ、サアディア・ガオン、ジョゼフ・ド・メ トーストルを読んだことがない。

p218
ヤツらの好みに合えば「民主主義」、ヤツらの好みと食い違う投票行動を取 れば「ポピュリズム」と。金持ちは納税1ドルにつき1票、もう少し人道的な人間はひとりにつき1 票、モンサントはロビイストひとりにつき1票と考えるが、知的バカはアイビー・リーグの学位、ま たは外国のエリート学校や博士号ひとつにつき1票と信じている。

p201
対立を避けるには、友だちをひとりも作らないようにしなければならない

p162
脳の各部分 (神経細胞など)の働きを理解したところで、脳そのものの働きは永久に理解できない。

p50
先ほど、マクロよりもミクロのほうがうまくいくと述べた。同じように、駐車場 の係員に挨拶するときには、あまりにも抽象的な話題は避けるのが賢明だ。人間は目の前の具体的な 環境に集中しなければならない。だから、シンプルで実践的な規則が必要だ

p37

現代性の由々しき側面とは、理解するよりも説明するほうが得意な人間がうじゃうじゃと増殖し ているという点だ。

*2|「レントシーキング」とは、保護目的の規制や,利権,を利用して、経済活動になんら貢献することなく、つまりほか

の人々の富を増やすことなく、収入を得ようとする行為。数ページ後に登場するデブのトニーがいうように、保護によ る経済的恩恵をまったく受けることなく、マフィアにみかじめ料を払わされるのと似ている。

p35
 しかし、最大の犠牲者は自由市場だ。もともと資産家を毛嫌いしていた一般大衆が、自由市場と高 次の腐敗や縁故主義を混同するようになったからだ。実際には、ふたつはまったく逆のものだ。救済 という仕組みによって腐敗や縁故主義を可能にしているのは、市場ではなく政府なのだ。

 

 

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