2017/01/09

『YKK秘録』/山崎拓

4062202123 YKK秘録
山崎 拓
講談社  2016-07-20


by G-Tools
  • 1991年の政治改革関連法案、永田町を少しでもクリアにしようと政治家自らが議論している、とまでは思っていなかったが嫌々ながらも何か行動はするものなのだと理解していたが、「政治改革」という題目ですら国民のほうは全く見ていなかったんだなあと慨嘆する。
  • 何かあればしょっちゅう氏家齊一郎と渡辺恒雄と会っていて、政治家ってそんなもんなんだと薄々そう思ってはいることだけどこうもおおっぴらに書かれるとなんというか呆れることもできない。安倍政権が会食で云々と言われているが、その是非と程度がこれまでと比べてどうなのかわからないけれど、あそこまで表沙汰にされる分今までよりましなんじゃないかと思ってしまうくらい。
  • とにかくこれだけ会食してればそりゃカネもかかるだろう。これくらいのカネは当然と思っているところがやっぱり麻痺している。とにかく日本は内緒話をしないと進まないプロセスが多過ぎるのだと思う。山崎拓も結局はボンボンなのだ。
  • 『日本会議の研究』を読んでなければ、村上正邦って誰だろう?と思っていた。
  • 中曽根の「われわれの世代は戦争経験を持っている。国家が体中に入っている。だから責任感がある」という言葉に打ち勝てなければならない。
  • 1997年から、米国は日本の集団的自衛権行使実現に向けて行動していたということ。
  • ベーカー国務大使が山崎拓の選挙敗北を予想できた理由と予想しなければいけなかった理由。

続きを読む "『YKK秘録』/山崎拓"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2016/01/01

『ふなふな船橋』/吉本ばなな

4022513098 ふなふな船橋
吉本ばなな
朝日新聞出版  2015-10-07

by G-Tools

何といえば良いのか凄く難しい。リアリティのあるオカルティックストーリーテリングとしては、『N.P』のような初期の作品ほどのパワーを感じることはできなかったし、全体的に密度が薄いというか、イベントが起きた際のそのイベントの突拍子もなさで一気にテンションが上がる場面と、そうでない場面との密度・落差が大きくて、どっぷり浸れた、という読後感ではありません。ましてやふなっしーなんてとてもポップなキャラクターを主軸に据えて、まるで「船橋マーケット」は手堅く抑えて、というマーケティングを見てしまったり。

けれどこの物語では、ふなっしーは重要な意味がある。主人公の花と、別れた恋人俊介は、現代の日本の資本主義経済下の二つの典型的なスタンスを代表していて、俊介は老舗のそば屋の跡取り息子でいわゆるエスタブリッシュメント、花は小さいけれど文化的な熱意を持った書店の店長でつまり小商い。一度振られた花が、復縁を申し込まれた俊介を、迷いに迷った果てに逆に袖にする。俊介は花と別れて別の女性と付き合っているけれど、その女性に「1か月だけ自由にしてほしい」と言って君に会いに来た、という。それはつまり、「滑り止め」の保険としてその女性はキープされている、ということで、その用意周到さもエスタブリッシュメントの特徴と言える。それに対して花は「「なんのために」とか「どうなるために」がない人たち」が良い、と言う。この二人のスタンスの違いを象徴しているのがふなっしーで、花にとってはふなっしーは心の拠り所となる大切な存在だけれど(そしてなんであれ人の心にはその人が納得できる心の拠り所が必要なのだと語る)、俊介にとってふなっしーは藤子不二雄などの物語キャラクターに比すると「格が違う」ということになる。人の心の拠り所はそれぞれに個人的なもので、だから較べることでしか現れない「格」など無関係なのだが、エスタブリッシュメントはその考え方を受け入れる訳にはいかない。それを受け入れることはエスタブリッシュメントの存在基盤を脅かすからだ。

問題は、この小説がそうした「小さなお金で生きている人たち」に力を与えられる小説か、ということだ。そうした生き方にこそ、お金に対する正しいスキルが必要で、だから花も「経理の勉強をして店長になった」というような描写がある訳だけど、この小説が、果たしてそういう生き方を志そうという人を増やす力を持っているかと言われると、考え込んでしまう。そういう生き方をして苦しんで傷ついた人を癒す力は持っていると思うけれど、そういう生き方を選ぶ人を増やして世の中を変えていくような力は持っていないんじゃないか、そもそもそれは志向していないんじゃないだろうかこの小説は、とそんな風に思ってなかなか難しいと思ったのでした。

続きを読む "『ふなふな船橋』/吉本ばなな"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2014/12/14

『フランシス子へ』/吉本隆明

4062182157 フランシス子へ
吉本 隆明
講談社  2013-03-09

by G-Tools

 吉本隆明の著作なので、僕にとっては最初から最後まで全部いいところばかりで、いちいちポストイットなんて貼ってられないんですが、『フランシス子へ』は、知ってはいたけれど何故か手が伸びなかった一冊。なんか多分、亡くなる直前の作ということで、その頃の文章としては『開店休業』で触れていたというのもあるし、亡くした愛猫に向けてのエッセイというのがどうも予想できるような気がして手が伸びなかったんだけど、『それでも猫は出かけていく』を読んで、やっぱり吉本家ともなると猫に対しても半端じゃないなあと感服したのと、大体吉本隆明の著作のレビューは良し悪し荒れるんですがamazonの本著のレビューは全般的に高評価だったので読んでみることにしたのでした。
 ホトトギスの話なんか「らしいなあ」と一ファンとして笑ってしまうのですが、一番印象に残ったのは老いに関して、「思ってるんだけど、やらないだけ」と言っているところ。これ、わかりそうでわからない。ここを目指して生きていけばいいんだな、という直感みたいなのはある。こういうところを目指さないで、「いつまでもやろうとする」老人が増えたから、世の中おかしくなってるのかなって。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2014/08/09

『ヤバい日本経済』/山口正洋・山崎元・吉崎達彦

4492396047 ヤバい日本経済
山口 正洋 山崎 元 吉崎 達彦
東洋経済新報社  2014-08-01


by G-Tools

東洋経済ONLINEの「やっぱり、アベノミクスは蜃気楼?」を読んだ流れで購入。アベノミクスは成果を上げているのか、という話題が最近あまり見なくなっていたところに新鮮だったので。

やっぱり、アベノミクスは蜃気楼?」でポイントと思ったのは:

  • 消費支出が前年同月比5月がマイナス8.0%、6月もマイナス3.0%
  • 機械受注が前月比5月マイナス19.5%
  • 日経平均が15,000円を維持している資産効果が全体を底上げ
  • 公共投資4兆円の恩恵を受ける業種だけ好調
  • 消費税上げの前は社会保障がままならないと言っておいて増税後は公共投資にばらまいている

これらを直裁に書かれていたので本著を読もうと思ったのですが、出だしは「予想を覆したアベノミクスの脱デフレ効果」でした。ただ、高額消費が増えた理由として、団塊世代の投資信託の価格回復が挙げられていて、上記の「日経平均が15,000円を維持している資産効果が全体を底上げ」と一貫していて納得しました。

しかしながら、日本経済全体が回復を実感できるのは、地価が上昇したとき、つまり、バブル前に購入してローンがまだ残っているような不動産の価値が今は「元本割れ」状態だけど、これが回復したら、皆お金を使うようになる、と解説されていて、理屈は理解できるけれどどうしてもこの理屈に素直に首を縦に振れない。その理屈だと、先の投資信託の話も併せて、消費の主役は団塊世代初め高齢者ということになる。高齢者は日本のボリュームゾーンだからそれは一面仕方がないとしても、資産効果によって高齢者の消費が好調になることが、20代~30代の若者世代の経済に波及するだろうか?地価の上昇によって経済を上向きにするシナリオよりも、下落した地価をコスト減と評価するほうが、今後の日本経済にとって望ましい方向ではないか、という疑問が持ち上がる。これは成長を是とするか非とするかという根本的なところに関わってくるので簡単に考えを纏められないが、地価が上昇しなければ日本経済は復活できないというロジックは、実は乗り越えなければいけない課題のような気がする。


そこへグッドタイミングというべきか、今日の日経朝刊にこんな記事。やはり、日本経済のマクロ指標が悪いというのは周知の事実なのだ。


Dsc_1610_2

他に面白かったのは、ロシアが付加価値が分からない、希少価値しか分からない、という下り。なるほどね、と納得。

続きを読む "『ヤバい日本経済』/山口正洋・山崎元・吉崎達彦"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013/11/17

『すばらしい日々』/よしもとばなな

すばらしい日々
すばらしい日々 よしもとばなな

幻冬舎  2013-10-24
売り上げランキング : 953


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

よしもとばなながこれまで繰り返し言っているのは「今日一日を大切に生きよう」というシンプルなことで、逆にこれ以外のことはほとんど言っていないと思う。「今日一日を大切に生きる」というテーゼは誰でも思っているし誰でも言える簡単なテーゼだけど、それを芯から納得できるように言葉で伝えるのはほとんど誰もできない。よしもとばななは物語でそれをやってのける上に、エッセイでもそれをやってのける。

いちばん心を打たれたのはやはり「血まみれの手帳」という、父・吉本隆明の遺品である、血糖値をメモした手帳を譲り受けた件を書いたエッセイ。眼が見えなくなっていてもメモを書き付け続けた父の孤独な闘いが、よしもとばななをいつか支えるんだというこの話は、自分はどういうふうに生きていけばいいのかを考えるとても大きな助言になる。
できることなら自分も、考えることをやめないで、思うことをできる限り正確に伝えられるように自分を鍛錬し続けていきたいと思う。生きていくために働くことが必要であるなら、働いているフィールドにおいても、できる限り正確に話し、正確に伝えられるように研鑽していきたい。そう思うことは、その日一日を大切に生きることに繋がっていると思う。ただそれには途方もない精神力が必要だけれども、その精神力の立ち上げの助けになってくれるのが本著だと思う。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013/06/15

『さきちゃんたちの夜』/よしもとばなな

4103834102 さきちゃんたちの夜
よしもと ばなな
新潮社  2013-03-29

by G-Tools

 宮崎行きの飛行機で読んでいたら、舞台に宮崎が出てきてびっくりしたとか、いつも通りシンクロする我が読書。

 「これ、いつ頃に書かれた作品群なのかなあ」と思いながら読んでいたら、あとがきに「途中で親が死んだり」「けっこう長い中断を強いられたり」とあって、なんとなく読んでいて感じられた、ストーリーの滑らかさと相容れない、こつこつと諦めずに繋いでいくというような気配の訳が少しだけ判ったような気になりました。初出が2011年6月とあるので、1年半かけてこの五篇が創られたということになります。それが長いのか短いのかなんとも言えないですが、簡単な道ではなさそうだなあということだけは判ります。

 かつて、よしもとばななが世に広まり出した頃の、「癒し」「救い」というテーゼには、「ほんとにそんなにキツいのか?」と全面的に没頭することができないまま、よしもとばななの言葉と物語の力にだけは心酔していったのですが、非常に落ち着いたトーンで描かれた本著からは、今という時代が本当に生きにくい時代で、そんなキツい時代を生きる我々に物語を差し出そうとしてくれた気持ちがよく判ります。個人的には『デッドエンドの思い出』以来の読後感でした。

続きを読む "『さきちゃんたちの夜』/よしもとばなな"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013/02/24

『「反核」異論』/吉本隆明

B000J78L32 「反核」異論 (1983年)
吉本 隆明
深夜叢書社  1983-02


by G-Tools

 『「反核」異論』は未読だったのですが、書店でたまたま『吉本隆明が最後に遺した三十万字〈上巻〉「吉本隆明、自著を語る」』を立ち読みした際、『「反核」異論』の章が開いて食い入るように読んでしまい、本体もぜひ読みたいとなりました。

 『「反核」異論』は、原発の是非を世間が語り続けている今、読む価値のある一冊だと思います。吉本氏は原子力の利用について否定派ではなかった為、否、なかったからこそ読む価値があると思います。それは、原子力の利用の是非そのものについての知見を得るということではなく、『「反核」異論』という言葉を受け取ったときに何をどう考えるべきかを考えるという点において。

吉本氏の「反核」運動に対する「異論」の理由は明瞭で、

どうしてかれらは(いなわたしたちは)非難の余地がない場所で語られる正義や倫理が、欠陥と障害の表出であり、皮膚のすぐ裏側のところで亀裂している退廃と停滞への加担だという文学の本質的な感受性から逃れていってしまうのだろう?

 この一文に集約されると思います。私にはこの文章に何かを付け加えることは全くできません。自分なりに言い換えようと思っても言い換えることすらできないくらい、隙のない、それでいて今まで私が思ってきたことを代弁してくれている一文です。

 そしてもう一つ、その「反核」に対する反対表明について、

文学者の反核声明はだめだと思うんだけど、あれをだめなんだという批判と否定を組織してはいけないということです。つまり、反核声明を批判するのはひとりひとりでやらなきゃいけないと思う

 これで本当に充分だと思います。誰も反対することが出来ない、安全地帯と免罪符を振りかざし賛同を強要し徒党を組む行為というのが、「退廃と停滞への加担」だと切って捨てる気風や気概は、苦しく険しい道に違いないけれど、自由への道というのはそこにしかないと思う。吉本氏がこのとき「反核」に異論を唱えた理由は明瞭で、「反核を言うなら、なぜソ連にも言わないのか。なぜアメリカだけなのか。」「ソ連が仕掛けた「反核」運動は、ポーランド「連帯」弾圧を隠すためのものだというのがなぜ判らないのか」ということ。
 東日本大震災以降の日本で、例えば「反原発」と言うのは容易いことではないし、反核と反原発は共通点もあるが異なる文脈でもあります。でもそこでもし「反原発」に批判の余地がもしあったとしたら、それはやはり声をあげないといけない。「反原発」と同じように、「エコ」とか、「もったいない」とか、「ロングライフデザイン」とか「コミュニティ」とか、そういったものに繋がる可能性を孕んだお題目は、現代の日本にも氾濫していることを、忘れてはいけない。

続きを読む "『「反核」異論』/吉本隆明"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013/01/06

『横道世之介』/吉田修一

4167665050 横道世之介 (文春文庫)
吉田 修一
文藝春秋  2012-11-09

by G-Tools

 「世之介」が好色一代男の主人公の名前ということも知りませんでした。オビに「青春小説」と書かれていて、「これって青春小説だったんだ!」とタイトルしか知らなかったのでびっくりしたのですが、確かに九州から東京に出てきた横道世之介の大学生活を描いてるので青春小説なんだけど、その舞台は1980年代のバブル真っ盛りで、そのバブル真っ盛りの学生時代を、2008年の現代から振り返っている、という構成で、僕らぐらいの世代にとって、二重に捻った味わいのある青春小説です。

 バブルの景気の良さを背景にした、軽佻浮薄な世間の中で、それなりに時代の空気とマッチしながらも「人の良さ」を持ち合わせた世之介の人間性と、そんな世之介でも何かを失っていきつつ生きていく様を、僕のような同世代の読者は読みながら、今の自分もまだまだ一生懸命やり続けなければいけない、やることができるんだと思えるはずです。年を取って40歳も過ぎて、諦めるように生きなければいけないなんてただの思い込みだと、そんな気分にしてくれます。これは文句なく、厳密には世之介の世代より少し下なんだけど、同世代である団塊ジュニア世代にお勧めできる一冊です。

続きを読む "『横道世之介』/吉田修一"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012/10/27

『プラハ冗談党レポート: 法の枠内における穏健なる進歩の党の政治的・社会的歴史』/ヤロスラフ ハシェク

4798701246 プラハ冗談党レポート: 法の枠内における穏健なる進歩の党の政治的・社会的歴史
ヤロスラフ ハシェク Jaroslav Ha〓sek
トランスビュー  2012-06-05

by G-Tools

第一次大戦前の1911年、ボヘミア王国プラハに、人気作家ヤロスラフ・ハシェクが新党を設立して選挙戦に挑んだ。その名も「法の枠内における穏健なる進歩の党」!

つまりは「冗談党」な訳だけど、実際に立候補して選挙戦を戦って、その活動っぷりの記録を一冊の本にしたのが本作。もうめちゃくちゃに面白いです。帝国という国家権力、その国家権力の維持の仕組と成り下がっている政党政治、それらを、外野ではなく実際に政党を作って立候補して選挙戦を戦って、スキャンダル告発やらなんやら、無茶苦茶にやりこめていく。でもその政党の政治活動と言ったら、プラハの居酒屋に集まって飲んだくれて、これまた滅茶苦茶な弁舌を捲し立てる、という具合。そのビールの金にも事欠くような集団が、体裁は整っているけれど、スタンスは冗談みたいな選挙戦を繰り広げるのです。

居酒屋でビール飲みに集まることが政治活動なのかどうなのか?知識としては持っている、ヨーロッパの「サロン文化」に似たようなことか、と合点してしまうこともできるし、そもそも冗談なんだから酒飲みながらやってんじゃないの、と言う気もする。でも、「広場のないところに政治はない」というように、政治って、政策とか投票とか、実行内容や仕組から考えがちだけど、原点は「人と人がどんな話をするか」というところだと思う、ので、この「口達者」な新党党員たちの八面六臂ぶりが眩しく見えます。

そう、帝国という危なっかしい体制だから、私服刑事とか密告者とか、現代の日本では考えられないような危険な相手が普通にいるというのに、彼らはその口八丁ぶりで、そんな「当局」側の攻撃さえ、逆に返り討ちにしてしまう。その鮮やかさにびっくりするとともに、そんな弁舌を持ちながら、まともに選挙をやる訳ではないところに、不思議よりは面白さを強烈に感じてしまう。

僕らはいつの間にか、「望みがあるなら、直線的に、直接的に、行動して結果を出さなければ、意味がない」と思い込まされていたと思う。確かに、成果の出ない行動は、やってるのかやってないのか分からないことには違いない。でも、何かを変えるために、しゃかりきになって青筋立てて「あいつが悪い」とやるのが果たして正解なんだろうか?そこまでやっても変わらないのだからよりもっと強力に、となってしまうのもわかるし、正面切ってやらずにコネとかなんとかで裏から手を回してネゴして、みたいな日本的なやり方がとんでもない数の弊害を招いてきた歴史も知っているから、どうしても、しゃかりきにならないと正々堂々としていないと思ってしまう。でも、第一次対戦前のボヘミア王国、今の僕らよりももっと閉塞していたに違いない政治状況で、こんな風に打って出たハシェクの行動を粒さに読むと、「維新」のなんたるか、その神髄を教えられた気になったのだ。

日に日に困難な政治状況になっていくような今こそ読むに相応しいと思います。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012/08/22

『家族のゆくえ』/吉本隆明

4334786073 家族のゆくえ (知恵の森文庫 a よ 4-2)
吉本隆明
光文社  2012-07-12

by G-Tools

 ヘルシンキ行のフライトで読もうと買った二冊のうちの一冊(もう一冊は『国境の南、太陽の西』)。刊行時はなぜか読む気になれなかった一冊。

 自分の精神的に非常に大きな力になったのは、「「やる」ことは「考える」ことより大切だとおもわれがちだが、わたしはそんなことは信じていない」という一節。行動を起こせていなければ、それは「口だけ」であり意味のないことだと自分を責めるようにしていたが、もちろん、行動することは大切だけれども、「考える」こともそれと同等に大切なことだと信じることがより重要だ。何も考えていない人々の群れが、社会をよくない方向に導いていく。だから、社会は人々をより何も考えない方向に導こうとする。このことに、自覚的にならないといけない。

 「本気の愛情」の下りはなかなか難しかった。本気というのは手間を惜しまないということに繋がるが、効率的であることと本気であるということは相反することになるのだろうか?企業社会では「本気」になっているように見える人たちが大勢いるが、彼らは必ず「効率」を説く。端折れるものは端折れと説く。あれは、本気のような「プロセス」をよく知っているだけということだろうか?

 「七十九歳以降の老齢実感」の章で語られる、現在の大都市の問題は、IT産業に身を置く自分にとって痛切。現在の「現代社会」で起きている諸問題が、大都市とハイテク産業における時間スピードの高速化によって、人間間の暗黙の了解と意思疎通が破壊し尽されつつあることが原因であり、これを解決するためには、ハイテク産業の歴史的役割を見出し組み入れることしかない、とする著者の意見は全くその通りだと思う。ハイテクの進化を進め、社会を更に”改善”しようとしていくことが、この現代社会の諸問題を解決することには繋がらないと思う。その弛まざるスピードアップが歴史上どういう意味を持つのかを「考え」なければならない。

続きを読む "『家族のゆくえ』/吉本隆明"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012/04/22

『サウスポイント』/よしもとばなな

4122054621 サウスポイント (中公文庫)
よしもと ばなな
中央公論新社  2011-04-23

by G-Tools

過ぎたるはなお及ばざるが如し。なぜかわからないけど、そんなことを読後、思った。

あと、幸彦さんが実は珠彦だった、じゃなくて、幸彦のままでどんな展開になったか読みたかったなあ、というのはちょっと低俗な趣味かな。

続きを読む "『サウスポイント』/よしもとばなな"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011/11/29

『スウィート・ヒアアフター』/よしもとばなな

4344020936 スウィート・ヒアアフター
よしもと ばなな
幻冬舎  2011-11-23


by G-Tools

 これは、関西に住んでいる僕のような、東日本大震災で直接的な被害に遭っていない人こそ読むべき物語だと思います。絶対に読むべきです。

 帯に「この小説は今回の大震災をあらゆる場所で経験した人、生きている人死んだ人、全てに向けて書いたものです。」とあって、「そうなんだ」と思って読んで、読み終えて「そうかなあ?」と思って、今これを書き始めて「その通りだ」と思ったのです。

 この物語の中には、大震災は出てきません。そこまで直接的な物語ではなく、帯に「小夜子は鉄の棒がお腹にささり、一度死んで、生き返った。」と書いているほど、オカルティックな物語でもありません。確かに鉄の棒がお腹にささるんだけど、「一度死んだ」はどちらかと言うと、比喩的です。
 でもこの物語は、確かに大震災を経験した人々に向けて書かれているということは、読めば実感できると思います。「とてもとてもわかりにくいとは思いますが」と書かれてますがけしてそんなことはなくて、恋人を喪失し、自身も生死の淵を彷徨い、そこから回復していく様は、変わらぬばなな節であり、大震災を経験した人々への祈りであることもストレートに読み取れると思います。

 でも、僕は読中も読後も、いくつも胸に迫るシーンがあったりしつつも、何か読み足りない気持ちが残りました。うーん…と思ったのですが、あとがきを読んでわかりました。

 もしもこれがなぜかぴったり来て、やっと少しのあいだ息ができたよ、そういう人がひとりでもいたら、私はいいのです。

 この物語の「重さ」は、やはり、あの大震災の被災者の方にきっちりと伝わるのだと思います。あとがきでばなな自身が「どんなに書いても軽く思えて、一時期は、とにかく重さを出すために、被災地にこの足でボランティアに行こうかとさえ思いました。しかし考えれば考えるほど、ここにとどまり、この不安な日々の中で書くべきだ、と思いました。」と書いている通り、被災を真剣に受け止めている人に伝わる「重さ」なんです。そして、その「重さ」を、頭でわかっても心には感じ切れなかった僕は、やはり、大震災を自分のこととして捉えていないのだと思います。
 だからこそ、東日本大震災で直接的な被害にあっていない、西日本の人々に読んでほしい、如何に自分が東日本大震災を自分のこととして捉えていないかがきっとわかるから。だから、冒頭で引用したように、「この小説は今回の大震災をあらゆる場所で経験した人、生きている人死んだ人、全てに向けて書いたもの」という言葉に深く納得したのです。あらゆる場所。

続きを読む "『スウィート・ヒアアフター』/よしもとばなな"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011/01/22

『もしもし下北沢』/よしもとばなな

4620107573 もしもし下北沢
よしもと ばなな
毎日新聞社  2010-09-25

by G-Tools

ほんと「さすが」としか言いようがありません。ここしばらく女性作家の恋愛ものを大量に浴びるように読みたいというテンションが続いてて、先週あたりにジュンク堂ヒルトンプラザ店行って目についたものを買い込んだんですが、その時、「最後に『もしもし下北沢』を読む。たぶん、これ一冊読んだらそれで済んじゃうけど、それもなんなので、いろんなのを読んで、それからこれを読む。」と、そういう方針だった。で、実際そうだった。あまりにメジャーであまりに当たり前に良い作品だけ読むことになっちゃって凝り固まるのはいけないんだろうなあと思っていたんだけど、これだけでいいんだからしょうがないじゃないか、読み終えてそう思った。やっぱりよしもとばななの小説はしっくり来る。なのになんで本作を今まで読んでなかったのか?というと、地名の印象で引っ張るっていうのがあんまり好きじゃないから(笑)。「そんな、下北沢なんかに住めりゃそりゃいいじゃん!そんなんで差異をつくんのって、ずるい!」と思う訳です(笑)。でも、いたずらに下北沢という地名のイメージで押してくるような内容では全然なかった。そこも「さすが」でした。

何が違うって、頭に残る映像が違う。映像というかイメージというか。たいていの作品は、「目に見える」景色がイメージとして描写されていたり、目に見えないものを何かの雰囲気や形を借りて描写したりしている訳だけど、読んでるときは作者が表そうとしてるものが喚起できても、読後にそのイメージはほとんど残ってなくて、粗筋だけが残る。でも、自分が好きだと思う作家の小説は決まって「作者が作品の中で言おうとしたこと」が、(それを僕が正しく読み取れたかどうかは別問題として)イメージとして頭の中に胸の中に心の中に残るのだ。よしもとばななは正にそう。どんな粗筋だったかももちろん残るけど、小説の中に宿っているよしもとばななの人生におけるフィロソフィーとか想いとかそういうのが「イメージ」としてくっきり残るんです。それは言葉にはできないけれど、自分の胸の中では「ああ、あれはこういうイメージの小説だったなあ」というのが、引出の中に大切にストックされる。そういうイメージとともにストックされた作品がたくさんあって、今の自分が、今の自分の考え方や哲学や日々生きるための知恵や工夫やスタンスや強さみたいなのが出来てるんだと思う。

最初に書いておくと、ラストの山崎さんとの下りは、中年男性の僕にとっては、ありきたりの展開過ぎて、つまらなかったというか、なんか予想外の展開で驚かせてほしかったというか、そういう不満はあります。「”品行方正”という意味で正しいということが何か、大人として何かはちゃんとわかっております、判っているということを事前にお伝えしておいて、それでもそれを破ってでも僕はこうしたいんです」式の口説き方に、とりわけ若い女性が弱いということは悔しいくらいわかる訳で、(もちろん山崎さんとよっちゃんの間柄はそんなちゃちいもんではないけれど)その筋に乗っかっちゃったのが少々残念なとこではあります。でもそれを差し引いても、この小説が持つ「切迫感」みたいなのは痛切で痛烈で、切迫感を息切れさせないまま、きちんとある方向に誘ってくれる。そこが「さすが」と賛辞したくなる所以。

「お父さんが知らない女性と心中してしまった」という帯の粗筋だけでは、それがどういうことなのかは半分も書けてないけど、とにかくとんでもなく重たい辛い悲しい出来事があって、残された妻・娘がどんなふうに生きていくかが、基本的に娘・よっちゃんの視点で書かれてる。よっちゃんはひどく丁寧に物事を考え、考え抜いて、行ったり戻ったりを繰り返す。そして、何度も何度も「今はそのときではない」というスタンスが出てくる。「今はそのときではない」。このスタンスは、よしもとばななの小説では結構見かける気がするし、よしもとばななの小説以外ではあんまり見かけないような気がする。「今はそのときではない」。この考え方、哲学、はものすごい重要だと思ってる。今までの自分は常に獣のような、「やれるんなら今やろう」的な生き方をしてきたように錯覚してたけど、「今はそのときではない」こう考えて自重できる哲学をとても大事にして生きてきてたんだなと思う。焦らない、焦らない。いずれ時が来る。そのときはそのときちゃんとわかる。それまでちゃんと待つんだ。自分の周りの環境がそれを待ってくれなかったらそれはそれまでのことなんだ。『もしもし下北沢』が改めて僕に提示してくれたのはそういうことだった。とんでもなく重たい辛い悲しい出来事があったとき、よっちゃんのように行きつ戻りつ、かかるだけの時間をかけて立ち戻っていくのが自然なんだよと。

その人の言葉の、どこに真実があって、どこかに嘘があるのか?誰の言ってる親切が、優しさが、本当の気持ちなのか?欲の裏返しではないのか?自分の弱さが、その裏返しに絡め取られてすり減らしてしまっていないか?間違えたりはしない。

Check

p4「うすうすわかっていることをだれかがはっきりと言葉にしてくれると、心はこんなに安らぐんだ、そう思った」ばななさん、あなただよそれは!
p15「私も意味がないことをしたい。若いときに戻れるとは思わないけど」
p20「『大人になったら、きちんとしていればなんとかなる』っていう教えを私にたたきこんだこの世の全てに、今はただひたすらに反抗したい」
p59「でもこういう割り切れない時期があるのって、大事なことかもね」
p60「精神的な飢えが根底にあるのに、他のことでその瞬間だけ取り繕っているんだから」
p68「前向きすぎず、後ろ向きすぎないその態度を見て、なんといい女だろうと思ったのだ」
p91「まだ言うな、そして言わないことは裏切りではない」
p106「なにもなかったように暮らしていけたら、それはおかしいよ。だからもし僕がよっちゃんだっ たら、同じように思うと思うんだ。なにかしたい、なにかしなくちゃって。でも、パパが帰ってくるわけじゃないからなあ。そういう気持ちを持ったまま、じっ と今にも腐りそうな荒れた気持ちで、生きていくしかないんじゃないかなあ」
p115「光だけじゃだめなの?日常の温かさだけじゃ生きていけないの?」
p139「そうか・・・時間はたっているんだ」
p156「失っていく、もう戻らない。/そのかわりに、私はこれまで知らなかった、雨の茶沢通りの匂いを知っている」
p158「私が彼を見る目はちょうど、奥さんがいて、でも大好きな見た目の若い彼女を見る男のような、奇妙に切ないものだった」
p169「諏方神社だよ。有名なおせんべいやさんの近くの・・・」
p188「そう、こわいことは、お父さんがさまよっていることだけではなかった。お母さんが心の中でお父さんを完全に捨ててしまうこと、それがいちばんこわかったのだ」
p193「多分もう会うことのない人、でも生涯わかちがたく結ばれてしまった人」
p202「この膜があるままに行動すると、後で必ずしっぺ返しが来ると、私の本能は語っていた。どうしてなんだろう、でもそうだったのだ。」
p208「これが若さというものなのだと実感もしていた。経験していなことをひとつひとつクリアしていく歓び」
p211「さよなら、私のごまかしの恋。今でなかったらきっとほんとうに夢中になれた恋」
p212「数をこなして慣れているから、女性はこういうとき追いつめないほうがいいとわかっているだ。/くすんだような、悔しいような、それは決して嬉しい気持ちではなかった」
p219「よっちゃんの好きにするといいよ、それはいやではないし、反対しない。ただ、私は全然行きたくない」これが”社会”では通じない
p219「こんなふうに捨てられるってどういうことかわかる?世間体を考えてもすごくみじめだけれど、そんなことじゃない」
p228「さすがお母さん、どうして「探偵物語」を観ていたのだろう」
p245「実らないものには実らないものだけが持つ良さがあった」
p252「空っぽにしてあげたい、そう思わずにいられない」
p259「でも新谷くんと行けるところはどこにもない、気持ちよさの果てで行き止まりだ」

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2010/03/22

『マリさん』/矢寺圭太

4063728943 マリさん (モーニング KC)
講談社  2010-02-23

by G-Tools

 主人公で童貞のカトーくんは先輩の彼女であるマリさんに恋心を抱く。その思いは清純そのものだけど、マリさんは・・・。

 マリさんがどういう女性かというのは、まとめた言葉で書き表すのは非常に難しい。マリさんが言う「妄想」が、ほんとに「妄想」なのかそうじゃないのか、という難しい問いもある。書き表すのは非常に難しいけれど、マリさんのような女性がいて、それが特殊でもないし大袈裟に非難されるようなものじゃないということも、ある程度歳を食ってきた僕らにはもちろんわかる。

 わかるけど、わかるからここで起きてる話はとても紋切り型で取り上げるほどの中身もない、と思えるはずなんだけど、全然そんなふうに冷静に読めない。カトーくんの清純な思いは、ラスト1/3からの、それまでの「清純ラブコメディ」を大転換して突き進むストーリー上でも思い切り胸に響いてくる。なんかものすごいものを見てしまった、衝撃で呆けてしまうくらい。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2010/03/01

『ルパンの消息』/横山秀夫

4334745695 ルパンの消息 (光文社文庫)
光文社  2009-04-09

by G-Tools

 1985年作の著者処女作。最も印象に残るのはp436「あらゆる正論に耐性を身につけた化け物じみた犯罪者が次々と現れてくる」のくだり。確かに、僕が生まれ高校生までを過ごした昭和の後半というのは、融通が効かないというか効かせないというのか、明瞭なルールの下での公平を求めて、正論を正論として認めようという空気が少なくなかったのは事実だと思う。地域社会や家族のつながりさえも希薄になり、理解不足が進み、正論を押し通さなければならなくなった時代。それは「なあなあ」な「土着的」なもののネガティブな面を極端に毛嫌いした結果でもあると思うんだけど、その結果、本当に「融通」が全くない社会に突き進んでしまった感がある。すべてを正しいことで埋め尽くしてしまうのは間違いではもちろんないけれど、そうしようと思うのはなぜなのか何のためなのか、そういう視点を忘れてしまうから事態は悪化をたどるんだということに、いい加減気づかないといけない。 

続きを読む "『ルパンの消息』/横山秀夫"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009/09/05

『非属の才能』/山田玲司

4334034292 非属の才能 (光文社新書)
光文社  2007-12-13

by G-Tools

 みんなと同じではなく、みんなと違うことが、これからの時代に求められる。みんなと違うこと、それを「非属」でるという。これが本書の主張。

 僕は、本書が言うところの「群れのルール」に慣らされてきた人間なので、「非属」である人に大きな才能が隠されているという主張は理解はできるんだけど、じゃあそれ以外の人たちはどのように振舞えばいいのか?とすぐに思ってしまう。特段の才能のない多くの人たちが「群れのルール」を守ることで秩序ある「社会」という基盤があり、それがあるからこそ、みんなと違う「非属」の人たちの才能が生きるのではないか、と。でもこの発想は、「非属であること=自分勝手」という決めつけが前提になっている。人と違うこと=傍若無人、ではない。人がそれぞれ思い思いのことをやると大変なことになる、と感じてしまう皮膚感覚それこそが「群れのルール」が染み付いている証拠で、人と違う感覚を持つことと自分勝手であることはイコールではない。実際、「非属」を謳う本書の著者でも、「自分の感覚で決めるのは大いに結構なのだが、自分が常に正しいかどうかはわからないという自覚だけは必要だ。」と書いている。この部分が峻別できないところが、日本社会の未熟なところなのかも知れない。

 「何が嬉しくてそんなことするんだ?」という言い回しは関西弁ではよく使われるが、「その変わっている部分が誰を幸せにするのか?という視点が欠けてしまっている」という本書の言葉は深く考えてしまう。変わっている部分があったとして、それをどう活かせば幸せになれるのか?自分にとって幸せとは何なのか?群れで大過なく過ごすことだけ考える社会だと、そんなこと考える意味さえない。そういう意味でも、「非属」という考え方には大きなアドバンテージがあるように思う。

続きを読む "『非属の才能』/山田玲司"

| | コメント (1) | トラックバック (1)

2009/08/29

『キラークエスチョン』/山田玲司

4334035213 キラークエスチョン (光文社新書)
光文社  2009-08-18

by G-Tools

 日経新聞の欄外広告で『キラークエスチョン』という書名が目に飛び込んだとき、「これはいいこと言ってるな」というのと「なんかまた一芸タイトルみたいなのが出たな」というのと両方浮かんだんだけど、著者名を見て「これは買わねば」と。山田玲司だ。僕の大好きなマンガ『Bヴァージン』の作者であり、「バブル」と「バブル崩壊後」という「共通の時代感」ベースがあれほど必要なマンガを書いたのに、その後も消えることなく仕事を続けている「芯」を持ってる作家。おまけに、以前、本屋で山田玲司の新書を見かけておきながら購入せず、そのことも思い出した。これはいてもたってもいられない。

 『キラークエスチョン』は、「会話に重要なのは、”話す”ことではなく”聞く”ことだ」というシンプルなメッセージと、それを実践するための具体的な26のキラークエスチョンが掲載されている。このメッセージもキラークエスチョンも、全面的に大賛成な内容で、著者がほんとは人見知りで会話が苦手ということが心底よくわかる。僕も人見知りで会話が苦手だから。それでも人は会話する生き物だから何とかこの局面を打開しないといけない、そう日々悩んで編み出したのが、「相手のことを聞くこと」だったから。「編み出す」というほど大層なものではないかもしれないけど、もともと会話が苦手な人間というのはそういうところすらできないから苦手なんだし、本書が出版されるくらいだから、世間では僕と同じような会話が苦手な人が少なくないんだと思う。

 僕の感覚が少し違うところは、「誰も僕のことになんか興味を持っていない」というのがある。要は、人は自分のことは話したがるけれども、人のことはそれほど聞きたがらない、ということだ。だから、僕は自分のことは会話ではあまり話さないように気をつけていた。これはこれで、自分の評価を徒に落とさずにすむ方法ではあったけれど、今ひとつ相手との距離を縮められない原因でもあったと本書を読んで気づいた。キラークエスチョンは使いこなせていたけれど、それは相手をよく知ることと会話での空白をなくすためにしか使えていなくて、「お互いに」よく知り合って関係を深める方向には使えていなかった。これは、仕事上の役割と関係があるのかも知れない。そして、このスタンスで深まる人間関係に一定の傾向があるのも、考えてみるとそりゃそうか、と思わなくもない。

 心配なのは、「人は自分の話を聞いてもらいたいもの」こういう感覚さえ、実は失われていて、喋る一方がよしとされているんじゃないか、と感じるときがあること。世の中には、ひたすら喋り捲る人がいる。普通はそういう人は、煙たがられる。けれど、最近、そうやって押し切る人に対して、面倒くさいからかなんなのか、それを良しとするような風潮が芽生えてきているように思う。「自己主張」なんてもんじゃない。誰も彼もが、受身で楽しようとしているのだ。

 本書のもっとも太いメッセージは、「人はみんな違うものだ。だから聞くんだ。」というところ。日本は、均一化社会で、極力聞かなくていいような人間にみんななるようにシステム化してきた。個性だなんだといったところで、みんな自分と似たような個性を持つもので「ちっこい日本」を再生産する。そうじゃなくて、本当に個々人が個人として生きていける社会を目指すためには?それに対する答えのひとつとして、確実に『キラークエスチョン』は有効だと思う。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009/08/12

『Talking Rock ! (トーキング・ロック) 2009年 09月号』

B002ILO9RE Talking Rock ! (トーキング・ロック) 2009年 09月号 [雑誌]
トーキングロック  2009-08-05

by G-Tools

 お目当てはもちろん吉井和哉!びわ湖ホールと大阪城ホールのツアーレポがあるってことで。

 びわ湖ホールのあの衝撃のMCが完全?再現されてて爆笑。でも、あのMCのきっかけ自体は、思いつきのデマカセじゃなくて、知人の滋賀県人からそうだと聞かされたからだとか。
 いちばん印象に残ってたのは『恋の花』なんだけど、それはアレンジが違って新鮮だからとかじゃなくて、なんかとんでもないエネルギーが襲い掛かってくる感じだったから。で、インタビュー読んでみたら、やっぱり過去の曲もまるで生まれ変わったように自分でも感じると言ってた。

 写真が相変わらずどれもめっちゃかっこいい!!びわ湖ホールと大阪城ホールで満足してたけど、やっぱりZepp Osaka、いくべきだったな、と激しく後悔したのでした。

 次はバインのインタビュー読も。吉川尚宏氏って奈良県人なんですね。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2009/07/05

『一下級将校の見た帝国陸軍』/山本七平

4167306050 一下級将校の見た帝国陸軍 (文春文庫)
山本 七平
文藝春秋  1987-08

by G-Tools

現在、無闇に好戦的なのは一体何歳くらいの人間か。終戦を学徒で終えたとするなら、現在70歳~80歳くらいか。戦争の記憶があって、戦争に加われなかった世代だ。
この本の初版が1976年であることにも注意したい。

p16「学生に何とか執行委員長とかいった肩書がつくと一瞬にして教授への態度がかわる。ついで就職ともなれば、一瞬にしてまた変わる。社員になればまた一瞬にして変わる。」
p17「事大主義すなわち”大に事える主義”です。」
p27「以後何かあるたびに、「これは結局、二個大隊といわず、”連隊ただし一個大隊欠”と言いたがる精神構造」
p30「在学中に「現地教育」の名で戦地に送られている。最も不幸だったのはこの人たちで、その大部分は海没」
p44「そういう際に出てくるのが精神力」「強調に変わった」「なるほど、アッツはこうだったのか」
p46「下級指揮官を射殺して士気の末端を混乱させるのは確かに有効な方法」
p49「いわばナチ・モードで、そのムードに自ら酔っていたわけだが、ナチズムへの知識は、ナチの宣伝用演出写真とそれへの解説以上には出ず、またドイツ国防軍の総兵力・編成・装備・戦略・戦術に関する専門的具体的知識はもっていなかった」
p89「イタリア男の甘言に弱い日本娘」
p93「戦闘の体験はあっても、戦争の体験がなく、戦争の実体を何も知らなかった。そのくせ、何もかも知っていると思い込んでいた、ということであろう」
p94「「成規類聚」の権威東条首相にできることではなかったし、また形を変えた似た状況の場合、いまの政治家にできるかと問われれば、できないと思うと答えざるをえない。」
p97「そこを一時間で通過して、何やら説明を聞いて、何が戦跡ですか。」
p105「「現地で支給する」「現地で調達せよ」の空手形を濫発しておきながら、現地ではその殆ど全部が不渡り」
p110「「思考停止」、結局これが、はじめから終わりまで、帝国陸軍の下級幹部と兵の、常に変わらぬ最後の結論」
p113「それはむしろ発令者の心理的展開のはずであり、ある瞬間に急に、別の基準が出てくるにすぎない。」
p114「方向が右であれ左であれ、その覚悟ができているなら」
p130「狂うとは何であろうか」「それは自己の「見方」の絶対化・神聖化」「見方の違う者は排除し、自分の見方に同調する者としか口をきかなくなる」
p136「盗みさえ公然なのだから、それ以外のあらゆる不正は許される」
p145「それは、今、目の前にある小さな「仲間うちの摩擦」を避けることを最優先する、という精神状態であろう」
p149「そのことと、それが員数主義という形式主義に転化していくこととは、別のことであり、この主義の背後にあるものは、結局、入営したときに感じたこと」
p150「いまに日本は、国民の全部が社会保障をうけられますよ。ただそれが名目的に充実すればするだけインフレで内実がなくなりますからね。きっと全員が員数保障をうけながら、だれ一人実際は保障されていない、という状態になりますよ、きっと。」  
p157「現在では、この私物命令の発令者が、大本営派遣参謀辻政信中佐であったことが明らかである。」『戦争犯罪』(大谷敬二郎著)
p171「それは戦後日本の経済の二重構造の原型のような姿」
p202「フランクルの『愛と死』」
p209「「歴戦の臆病者」の世代は、いずれはこの世を去っていく。そして問題はその後の「戦争を”劇画的にしか知らない勇者”の暴走」にあり、その予兆は、平和を叫ぶ言葉の背後に、すでに現れているように思われる。
p242「案外、沈まないで持ちなおすんじゃないかといったような気がして」
p277「環境が変わると一瞬にして過去が消え、いまの自分の周囲に、」
p284「自暴自棄のバンザイ突撃に最後まで反対」「冷徹な専守持久作戦で米軍に出血を強い続けた沖縄軍の八原高級参謀」
p287「日本の将官、指導者に欠けていたのは何なのか、一言でいえば自己評価の能力と独創性・創造性の欠如」「事実認識の能力」
p294「自分たちで組織をつくり、秩序を立ててその中に住む」
p299「最終的には人脈的結合と暴力」
→人脈的結合は欧米のほうが強い傾向では?
p301「そしてこの嘆きを裏返したような、私的制裁を「しごき」ないしは「秩序維持の必要悪」として肯定する者が帝国陸軍にいたことは否定できない」
p303「陸海を問わず全日本軍の最も大きな特徴、そして人が余り指摘していない特徴は、「言葉を奪った」こと」
p397「統帥権の独立」
p310「帝国陸軍が必死になって占領しようとしている国は実は日本国であった」
p313「明治人は明確な「戦費」という意識があった」
p314「戦費支出の戦争責任」
p316「戦時利得者は大小無数の”小佐野賢治型”人物であり」
p319「上官が下級者に心理的に依存して決定権を委ねれば」
p322「「モチ米ヤミ取引」で丸紅が法廷に立たされる」
p326「「ロッキード事件における丸紅」を見て、その組織内の原則は結局同じ」
p333「帝国陸軍は、「陛下のために死ぬ」こと、すなわち「生きながら自らを死者と規定する」ことにより、上記の「死者の特権」を手に入れ、それによって生者を絶対的に支配し得た集団であった」
p334「それは「死の哲学」であり、帝国陸軍とは、生きながら「みづくかばね、くさむすかばね」となって生者を支配する世界」
p340「アーネスト・ゴードン」

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2009/05/05

『ベスト・オブ・谷根千-町のアーカイブズ』/谷根千工房

4750509019 ベスト・オブ・谷根千―町のアーカイヴス
谷根千工房
亜紀書房  2009-01

by G-Tools

 谷中・根津・千駄木の頭文字を取って名づけられた地域雑誌『谷根千』のアーカイヴ。

 一度だけ、出張のついでに谷根千を散策してみたことがある。そのときは、インターネットで何かを調べていてたまたまこの「谷根千」と呼ばれる地域のことを知り、たまたま出張先が近かったので立ち寄ってみた。確かに同じ山の手線内とは思えない風情を見たのを覚えてる。  

 結局、この『ベスト・オブ・谷根千』は、読みきれないまま返却期限を過ぎてしまい、慌てて返却した(ちなみに催促の電話をかけてきてくれた図書館職員の方は、留守電に吹き込む際、「ベスト・オブ」まで読んだところで次が分からず絶句してた)。返却前にパラパラと捲ってみたら、例によって、今関心を持ってる事柄に関連するページにドンピシャで出くわしたのでコピーしておいた。

p292「愛しの自筆広告 山﨑範子」
「雑誌は購読者と広告主が支えだから、「毎号欠かさず図書館で借りて読む」人より、「とりあえず出ると買っては親戚に送る」人に感激する。一万円の純利益を出すためにいったい何冊の『谷根千』を売ればいいの。その点、広告代をくださる方のありがたさ。すでになくなった店を広告でみると、その昔、婦女新聞の広告を眺めた時のことを思い出す。」

余りにもありてい。余りにもリアル。ここには「何のために雑誌やってるの?」という本質的な問いが付け入る隙はない。まず、創れてナンボ、なのだ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009/01/02

『彼女について』/よしもとばなな

4163275800 彼女について
よしもと ばなな
文藝春秋  2008-11-13

by G-Tools

 特殊な生い立ちを持ったいとこ二人の、凄惨な過去を手繰る物語。

 「魔女」という設定がものすごく突飛だったけれど、読んでいて違和感はなかった。「魔女」なんてものを小説に持ち込んで、やたらとディティールを描かなくてもすんなり胸に落とし込んでくるところがよしもとばななの小説の凄いところ。一方で、読み終える最後までひっかかりが残ってしまったのが、主人公の由美子・昇一とも、何もしなくても生活に困らない、というようなことが、それなりの事情をくっつけて描かれるところ。ストーリー上は、確かにそういう暮らしができる人生を送れた二人なんだろうと納得できるんだけど、この事情がなんか取ってつけたようで、ずっと頭に引っかかった。別に、この説明はいらなかったと思う。どちらかというと、そういう「浮いた生活感」を持つ人物の話ではなくて、本当にシビアな生活を送っている人の苦悩にリアルを感じる。
 魔女であるがゆえに引き起こされた過去の惨劇は、こう書くと荒唐無稽だけど、ほんとうに世の中に起きていることのように感じられた。それは、魔女ではなくて、不穏な宗教とか、そういうものをすぐに連想できるからだと思う。そういった事柄で不幸な事情を背負い込まされてしまった子供たちが世の中には少なからずいるってことを思い起こさせられる。そして、どう向き合っていけばいいのか?それを考えながら読むのが僕にとってのテーマだった。

 「浮いた生活感」の他に、もうひとつ引っかかりを覚えたのは、-こっちの引っかかりは問題意識という引っかかりだけど-「私は、女性は実業にあまり向かないと思う。」という台詞。この台詞の簡単な意味はすぐわかるけど、それは、『海のふた』を読んだときに思ったことと矛盾するように思う。もう一度、『海のふた』を読んでみようと思うとともに、やはり、やれないことをなんとかしてやれるようにできるよう進んできた世の中を、その是非を含めて一度見直してみたほうがよいということなんだろうか?

続きを読む "『彼女について』/よしもとばなな"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008/12/21

『論理学』/野矢茂樹

4130120530 論理学
野矢 茂樹
東京大学出版会  1994-02

by G-Tools

p13「「命題論理」とは、<否定詞と接続詞の論理学>なのである」
p16「否定詞も接続詞も含まない命題を 原子命題 と呼び、原子命題をもとにして否定詞や接続詞を用いて構成された命題を 分子命題 と呼ぶ」
P17「原子命題の真偽x1,x2,…,xnから分子命題の真偽yへの関数を 真理関数 (truth function) と呼ぶ。」
p49「構文論的方法」
1 以下に規定するような仕方で構成される論理式を「定理」と呼ぶ。
2 出発点として無前提に定理として承認される論理式をいくつか定める。ここで承認された論理式は「公理」と呼ばれる。
3 ある定理ないし諸定理からさらにどのような定理を導いてよいかを規定した規則を定める。この規則は「導出規則」、あるいは「推論規則」と呼ばれる。
4 公理と導出規則を用いて、次々に論理式を構成していく。こうして構成された論理式は「定理」と呼ばれる。
このような構造をもった体系を「公理系」と呼ぶ。
p53「ヒルベルトというドイツの数学者」
p54「ユークリッドが図形表現に引きずられてしまったからだ」
p56「心理学者ピアジェの「発生的認識論」」
p56「記号の意味を考慮せず、記号相互の導出関係、記号変形の規則のみを考察する仕方、このようなアプローチの仕方が「構文論」(syntax)である。それに対して、前節で見たような、意味および真偽という観点から為されるアプローチが、「意味論」(semantics)にほかならない。」

述語論理
p75「ドイツの数学者・論理学者・哲学者であるフレーゲ」
p84「オルガノン」
p85「古代ギリシャ哲学にストア学派およびメガラ学派という学派があったんですが、」
p86「「4の倍数は偶数である」と「4の倍数ならば偶数である」」
p87「特定の個人ないし個物を表わす名前を「固有名」と言い、固有名によって表わされる特定の個人ないし個物を「個体」と言う」
p90「真理性は、明らかに、語のレベルで問われるのではなく、文のレベルで問われる」
p91「空欄の部分は 変項 と呼ばれ、…命題関数を構成する変項以外の要素「…は犬である」の部分は 述語 と呼ばれる」
p95
1 命題 審議を問題にできる文
2 命題関数 命題から個体を表わす表現を空欄にし、x,y,z,…で置き換えたもの
3 (個体)変項
4 述語
5 (個体)定項
6 量化
7 全称量化子と存在量化子
8 量化の範囲
9 自由変項と束縛変項
p100「述語論理において論理的心理とみなされる論理式を「妥当式」と呼ぶ。」
述語論理の意味論
p102「「トートロジー」という言葉は、そのもともとの意味合いである「同語反復」を漠然と意味する場合から、明確に「恒真関数」のみを意味する場合まで、多少の語法の揺らぎがある」
p104「妥当式」 「論理式Aが妥当である=Aはいかなる解釈のもとでも真」
p126「フレーゲの論理主義」
p126「フレーゲへの手紙 ラッセル、1902」
p127「命題関数と集合の同等性」

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008/12/07

『まぼろしハワイ』/よしもとばなな

4344013859 まぼろしハワイ
よしもと ばなな
幻冬舎  2007-09-26

by G-Tools

 読んでいる最中、そして読み終わった後も感じたことが2つあって、ひとつは、「このストーリーはハワイでなければ起こり得ないようでいて実はどこでも起こり得ること、とかすかに感じさせるようなところがあるけど、もっとはっきりそう伝えてほしい」ということ、もうひとつは、「これは生の喜びを描いているようで実は”いかに死ぬか”を書いているのではないか」ということだった。

 オハナもコーちゃんもコホラも、(例によって)特殊な家族事情を抱えているが、それらを解き解くのが
ハワイの自然・生命の力のように描かれている。でも確かにハワイの気候や自然は特殊かも知れないけれど、そうじゃなきゃ何かがよくならないとしたら、それほど不幸なこともない。『まぼろしハワイ』は、ハワイならではのようで、ハワイならではない何かが詰まっている。でも、あまり目立ってない気がする。そこを目立たせるのかどうかは悩みどころだったのだと思う。

 もう一つの思ったことというのは、これはあとがきを読んで更に思いを強くした。『まぼろしハワイ』の「生の喜び」というのは、「今を生きる」というような、日々の日常生活をきちんとするといったことではなくて、「先を見据えている」芯の強さが滲んでいるし、あとがきには何度も別れについてかかれている。別れというのは恋人と別れるだけじゃない。「いつか終わる」ことを想像していないと何にも感謝できないというのは恥ずかしいことだけど、今に「やらないよりはマシ」という気持ちになってるのだろう。

続きを読む "『まぼろしハワイ』/よしもとばなな"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008/01/26

『失われた愛を求めて-吉井和哉自伝』/吉井和哉

4860520718 失われた愛を求めて―吉井和哉自伝
吉井 和哉
ロッキング オン  2007-12-22

by G-Tools

 もうとにかく共感の嵐!イエモンも結構早くから聴いてて折に触れインタビューとか読んでるから、共感できるところが多いのはわかってるんだけど、ほんとに共感できる人だなあと改めて思った。イエモンファンで吉井ファンの人は、かなり独特の感情が共通してる気がするから、ファンなら誰が読んでも僕と同じように共感の嵐になると思う!

 そんな中、ここが違うと思ったのは、青春時代の「やりたいことがない。やれることもない。自分になにがあるかわからない。」というくだり。青春時代、誰もが一度は思い悩むことのようだけど、振り返ってみたら僕はそういうことで悩んだ記憶がない。ただ進学して、ただコンピュータ業界で就職して、というカンジでそのルートに全然疑問を抱かなかったし、自分がそれができないとも全然思わなかった。この経験の欠落が、今の自分に大きく影響している気がする。最近、自分には何ができるんだろう?何をしてきたんだろう?という問いが時々浮かび上がる。そして残された時間は減っている…これは一度徹底的に悩まなければいけないことに違いない。
 もうひとつ違うのがその徹底ぶり。吉井和哉はこうすべきと思ったこととかこうしなければいけないということを徹底的にやっていることがこの自伝でわかる。それこそぶっ倒れるくらいやってる。こうしたいこうしようと思ったことは本気で徹底してやらないといけない。これも、自分の進む道をいい加減にしか考えなかったからその呪縛でこうなっている気がする。そういう、「全力でやることの尊さ」みたいなのが、この本全編から溢れ出てる。

 『SICKS』の後、バンドが下がり始めた、という記述が怖かった。これはなんとなくうっすらわかる。けれど、今の吉井和哉を見ていると、そういう山や谷があった後も、やっていける道は見つけられるんだよという希望も与えられる。

 少し不安になったのは、家庭事情が結構赤裸々に書いてあって、大変なんだろうなあと思うので、ここ最近のツアーラッシュやリリースラッシュやメディア露出ラッシュや出版ラッシュが金銭的問題を解決するためのものじゃないよなあまさか?ということかな。

続きを読む "『失われた愛を求めて-吉井和哉自伝』/吉井和哉"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007/12/09

『初恋温泉』/吉田修一

4087748154 初恋温泉
吉田 修一
集英社  2006-06

by G-Tools

 温泉を舞台にした5編の短編集。離婚が決まっている夫婦、結婚間もない夫婦、ダブル不倫の夫婦、夫が保険外交員の夫婦、そして高校生カップル。どれも「余韻」を漂わせる良品。

 『悪人』を読んだ次なので、情感の淡さが物足りなさと感じそうなところはあったけれど、もともと吉田修一の作品のどういうところが好きかというと、淡々としていて静かで取り分け特別な出来事を持ってきてる訳でもないのに、日々生まれる感情をくっきり表すところなので、この『初恋温泉』は読んでいておもしろかったです。不思議なことに、どんな話かひとつずつ思い出していって、最後にひとつ思い出せなかったのは、5編のなかで…

続きを読む "『初恋温泉』/吉田修一"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007/11/18

『高校生のための論理思考トレーニング』/横山雅彦

4480063056 高校生のための論理思考トレーニング (ちくま新書)
横山 雅彦
筑摩書房  2006-06

by G-Tools

p100 論証責任の発生 ①相対的な形容詞②助動詞③Iを主語とする「主観」を表す動詞

p117 クレーム=論証責任、データ=事実、ワラント=データを挙げる根拠

データ:関西の西武の試合はたいてい観にいく。
ワラント:ファンだからこそ、観にいく。
クレーム:僕は西武ファンだ。

議論にはテクニックがある
”無数に存在する事実の中から、なぜわざわざ「イチローが見た」という事実を取り上げるのか-その「根拠」を述べるのがワラントである”

リサーチの方法を学ぶ必要がある

p133 ピューリタン

p142 反対の方法
①反駁(リバタル)…データ・ワラントの矛盾・虚偽を指摘する
②質疑…データ・ワラントに論証責任を求める
③反論(カウンターアーギュメント)…そうは思わないという三角ロジックを立てる

p21 「だってそう思うから」を英語でどう言えばいいかだった
p25 ゲティスバーグの演説-19世紀半ば、南北戦争でリンカーンが行った
p25 「私には夢がある」-20世紀半ば、黒人公民権運動を率い、黒人の自由の象徴ともなったマーティン・ルーサー・キング牧師
p35 日本語を文章化する前に、いったんアルファベットに置き換えているわけで、その思考が英語化するのは当然
p40 国語学者の山口明穂氏
p42 モノセイズム(monotheism)
p53 ロゴスにロゴスを重ね、言挙げに言挙げを重ねた上で言葉を超えていく、いわば弁証法
p60 命題知(コード) 実践知(モード)
p92 take and takeという理念不在、責任不在のきわめていびつな民主主義
p123 ロジャー・フィッシャー yes-able proposition

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007/10/07

『悪人』/吉田修一

402250272X 悪人
吉田 修一
朝日新聞社出版局  2007-04

by G-Tools

 まず感じたのは、世の中の出来事や仕組みを自分は全然知らないし、見れてもないし、興味も持ててないのだなあという反省。被害者である桂乃が勤めていた業界である生命保険会社についての記述であるp66「社員を循環させることで新規の顧客を増やすこの手の業界」なんかは、自分も長い間社会人をやっているのだから書けそうな一文だけど、もし自分が生命保険会社を説明する文章を書こうとしたとき、この視点があったかと言われたら心許ない。そういった調子で、自分がいかに社会を見ていないかということを痛切に感じた。

 悪人探しをしても意味がないと思うし、誰もが悪人である可能性を持ってるという筋ではあるけれど、敢えて誰が本当の悪人か考えてみたい。それは…

続きを読む "『悪人』/吉田修一"

| | コメント (1) | トラックバック (0)

2007/07/12

『日々是作文』/山本文緒

4167708035 日々是作文
山本 文緒
文藝春秋  2007-04

by G-Tools

 書いてあることの発想ひとつひとつもおもしろいんだけど、「よくもこんなに丁寧に頭の中に浮かんできたことを文字にできるなあ」というのが最大の感動。頭の中に浮かんできた思考って、書く前はよどみなく湧き上がってきてばっちりなのに、いざ書こうとしたら雲散霧消でどうしたらいいのか判らなくなることが多いし、書き出したら追いつかなくて最初だけ、みたいなことがしょっちゅうなのに、この本は読んでる限りそういう痕跡はない。そこがすごい。

 それから、この文章は、ものすごいバブルの匂いがする。強烈に消費を肯定しているところとか。そういうのって今時の人はどうなんだろう?と思うけど、この本が売れたということは、この「バブル時代のノリ」みたいなものが、案外今の若者たちにも受けるのかと思えて少し安心した。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007/03/11

『恋愛小説』/川上弘美・小池真理子・篠田節子・乃南アサ・よしもとばなな

4101208069 恋愛小説
川上 弘美 新潮社
新潮社  2007-02

by G-Tools

 『天頂より少し下って』/川上弘美
 「あたしがこの世に生んじゃったせいで、あんたも恋愛とか失恋とかいろいろ厄介なことを始める羽目になったんだよね。ごめん。」この一文にびっくり。最近、『僕のなかの壊れていない部分』を読んで、「女性は、いずれ不幸になる運命を背負わせて新たな生を産むことに何の罪悪感も感じていない」というようなことが書かれているのを、「これは男でしか考えないことだろう」と思っていたから。

 『夏の吐息』/小池真理子
 「どちらか一つが本当のあなたで、もう一つはあなたという男の仮面をかぶった別の人間だったのではないか、などと考えてしまうのです。」これは反対に、女性でしか考えないことだろうなあ。人は辻褄のあうことばかりじゃない。特に男は。どうしていくつもの人間性を持つことをそのまま受け入れてはもらえないのだろう?

 『夜のジンファンデル』/篠田節子
 大人の物語、と言ってしまえばそれまでだけれど、踏み込まない切なさは上品。上品だけれど、その相手が俗物だったことに失望して、失望したのに…という展開がちょっとばたばたしてる気がします。そこはあんまり胸に響かなかった。

 『アンバランス』/乃南アサ
 このすれ違いはあるでしょう!あるある!!この手の話がハッピーエンドで終わることの是非はあると思うけれど、このすれ違いの苦々しさを感じるためだけでも読む価値あり。

 『アーティチョーク』/よしもとばなな
 よしもとばなならしい作品。前半、直接的な「恋愛」ではない物語-祖父への回顧-が面々と続き、途中から恋人との別れの話に展開する。そこに、今この一瞬は二度と戻ってはこないから一瞬を大切にしようというよしもとばななの哲学が入って、恋人との別れをどう決着するのかというラストシーンに流れ込む。これをハッピーエンドというのかどうか判らないけれど、恋愛の複雑で豊穣な余韻をいちばん残してくれると思います。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006/10/09

『ひとかげ』/よしもとばなな

4344012321 ひとかげ
よしもと ばなな
幻冬舎  2006-09

by G-Tools

 『とかげ』のリメイク。タイトルを見て「『とかげ』と何か関係があるんだろうなー」とは思ってたけどまさかリメイクとは思わずびっくりした。オリジナルの『とかげ』も収録されていて、読み比べることができます。
 両方読んでみた感想は、『ひとかげ』のほうがやっぱり円熟した印象。生身の人間の感覚が頭に染み込んでくる。『とかげ』のほうが読感はドラスティックなんだけど…

続きを読む "『ひとかげ』/よしもとばなな"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

『R25 2006/9/29-2006/10/5 ロング・インタビュー 吉井和哉』

Interview_imgR25 2006/9/29-2006/10/5 ロング・インタビュー 吉井和哉





 30歳になった頃は「とうとう30歳になってしまった~」というショックとも溜息とも言い切れない気持ちになっただけだった気がするけど、それから1,2年過ぎた頃から「この先どういうふうに歳を取っていけばいいのだろう?」というのが皆目見えず、周りにお手本もなく、文字通り暗中模索の日々だった。
 そこへ来て吉井和哉が現れた。文字通り「吉井和哉が現れ」てくれた。ザ・イエローモンキーを解散した後彼はYOSHII LOVINSONとして現れて、内面を深く追求した楽曲を提示してくれたけど、彼はYOSHII LOVINSONであって吉井和哉ではなかった。彼はこのインタビューの中でもこう語っている。…

続きを読む "『R25 2006/9/29-2006/10/5 ロング・インタビュー 吉井和哉』"

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2006/10/02

立ち読みのススメ!(日本経済新聞2006年10月2日朝刊5面「インタビュー領空侵犯」)

 日本経済新聞2006年10月2日朝刊5面「インタビュー領空侵犯」に、湯川れい子氏の「立ち読みが国を滅ぼす」という記事が掲載されてる。

国を挙げて日本のマンガなどの文化を世界に売り込もうとしているときに、このまま立ち読みを許し続ければ、だれも良いものを出そうとしなくなる。次世代の才能は育たず、日本の文化は衰え、国の力が低下してしまいます。

 立ち読みってそんなに行けないこと?そりゃ確かにあんまりいいことじゃないけれど、どうも「そんなに目くじら立てなくても」感もあったのでちょっと考えてみた。

 なんで立ち読みするかっていうと、大抵は買うほどじゃないと思ってるからだ。もうちょっと積極的な理由は、面白い内容かどうか確かめてみる場合。本一冊買うのだって雑誌一冊買うのだってお金が掛かるんだから、誰だって普通慎重になる。雑誌一冊だって、吊り広告で見た気になった記事だけ読めればいいってときは大抵立ち読みするんじゃないか。

書店やコンビニエンスストアで立ち読みして買わずに済ませたら万引きと同じ。

まずは手にとってもらい最後は買ってもらおうという狙いでしょうが、

 一般書籍とマンガと雑誌、書店とコンビニを同列で考えるのは難しいかも。湯川氏の論点は先に引用した通り、「立ち読みは国家的な財産侵害」ということだけど、例えば雑誌とコンビニという組み合わせだと、雑誌の立ち読み客がついでに小口物品を購入することを計算に入れてコンビニ側は商いしてて、当然そこに雑誌を卸している出版社側もそんなことわかって卸してる訳だから、そこには経済的にはなんも問題ない。そんなこと知らず卸してる出版社があったとしたらだいぶお間抜けだ。
 マンガは確かに最近どこの本屋に行っても特に単行本は立ち読みできないようにビニール閉じされてて、ここまできっちり立ち読み防止しているから作家の権利保護が図られこれだけ巨大産業に発展したという言い方ができるかも知れないけど、単行本は単行本になる前に週刊本・月刊本で連載されてるよね。あれは単価が安いからみんな買って読むと思う。本屋によっては月刊本で立ち読みできるし。つまり、ちゃんと「内容お試し」の機会があるってことだ。
 思うんだけど、文化というのは裾野を広げないと絶対に発展しないし隆盛もしないし向上もない。確かに一部の優れた秀でた人間だけで磨き続けていくようなタイプの文化もあるんだろうけど、ここで湯川氏が俎上に上げているのはそういった類の文化ではないでしょう。なんたって「立ち読み」に物申すくらいだから、広く国民に広まるような文化としての書籍を考えていると思う。であれば、裾野を広げるためには、単価を下げるか、お試しできるかという、「触れる」機会を増やすことが重要だと思う。
 で、小説は残念ながらあんまりそういう機会がない。おまけに単行本は高い。だから単行本が文庫本になるのを待ったりするし、新刊でちょっと興味を引かれたりしたら手にとって立ち読みして内容を確かめたりするのだ。そりゃ新刊をジュンク堂のような「座り読み化」の店で読破してしまう猛者もいると思うけど、そこまでして時間かけて立ち読みする人はそれはそれで相当の文芸好きで、買いたい本は買ってると思う。そうじゃなくてもそういう人が文芸という文化の担い手なのだ。
 文芸新刊もマンガと同じように文芸誌に連載されていたものが単行本になることもあるけど、マンガのように購入するケースは、よほどの文学好きじゃないと考えられない。それは価格とか通読に要する時間の問題とかもあるけれど、根本的には「文学を楽しめない」からだ。

 そう考えると、やっぱり「立ち読み」を云々するのは「小さいことに目くじら立ててるなあ」と思う。雑誌の立ち読みなんて、回転が速い分だけ買う人もいれば買わない人もいる。文芸本の立ち読みはそもそも完全にできやしない。

図書館で本を読む人たちと書店の立ち読みで済ませようとする人たちとは、本や雑誌に対する姿勢も認識もまったく異なると思います。

 そりゃ偏見ってもんだろう。どんな姿勢で本を楽しんだっていいじゃないか。ここには、「文化的なるもの」を優越的に見ようという傲慢な姿勢が見え隠れする。こういう権威主義的な姿勢こそが、文学の楽しさをダメにしてきた元凶であり、ひいては文学を楽しめないが故に書籍にお金をかけない空気が生まれてしまうのだと思う。

結局は一人ひとりのモラルに訴えるとともに、知的財産や著作権がいかに重要であるかを教育を通じて徹底するしかないのでしょうね。長い道のりですけど。

 そうじゃないと思う。同じ長い道のりを辿るのなら、文学や書物を楽しめるようにもっと言葉の力を磨く教育をするべきだと思う。根本的には活字を楽しめないから、活字を購入しようと思わないのだ。そこを抜きにして、権利やなんやを振りかざしても魂が入らないではないか。そんなのは生産者側の理屈だろう。文化ってのは、そういう生産者側マーケティングからいちばん遠いところにいて、そうじゃなきゃ衰退するっていちばんよくわかってるエリアじゃないの?

 ほら、湯川氏の本領である音楽業界だって、今じゃどこのレコードショップだって視聴機置いてるし、ネットで視聴もできるし、レンタルもできればネットで安価に購入だって出来るじゃないか。書籍は確かに図書館でレンタルできるけど、それ以外にもっとやることがあると思う。それを忘れて「立ち読み」なんてのに目くじら立てるなんて、小さい小さい。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006/09/29

読みたくなった本:『ひとかげ』/よしもとばなな

4344012321 ひとかげ
よしもと ばなな
幻冬舎  2006-09

by G-Tools

 品川駅の三省堂書店で陳列されてるの見て出てるの知った。荷物少なかったら買ってたんだけど。明日近所の本屋に買いに行こう。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006/09/18

読みたくなった本:『初恋温泉』/吉田修一

書庫  ~30代、女の本棚~

吉田修一的な文体でまとめられた5つの物語は、すべてはっきりとした答えは持たず、至極普通の生活で繰り広げられている恋愛を淡々と描いている。
前作よりさらりとしていて、物足りなさを感じるものの、読み終えて心が白紙の状態になった。

4087748154 初恋温泉
吉田 修一
集英社  2006-06

by G-Tools

  『パークライフ』が好きだったので、『初恋温泉』も読もうかどうしようかと悩んでたんですが、桜井さんの”書庫  ~30代、女の本棚~”のこの感想で読みたくなりました。何か動いてるんだけどどうなるのかは全然明示されないっていうあの独特の読後感が『初恋温泉』でも楽しめそう。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006/08/10

『出口のない海』/横山秀夫

4062754622 出口のない海
横山 秀夫
講談社  2006-07-12

by G-Tools

 2,3年前、大津島に「回天」を見に行ったことがあって、それでこの本を本屋で見たとき即決で購入。この本は、僕の読書観を大きく変えた。簡単に言うと、「ほんとうに大切なことは、簡単な言葉でじゅうぶんしっかり伝えることができる」ということだった。
 僕は今まで、端的には村上春樹のような、重層的なイメージを言葉で紡いでいて、それをいろいろに考えながらテーマを読み取ろうと思わないとテーマが判らないようなのが面白かった。そういうのを小説を読むということだと思ってたし、そういうのがよい面白い小説だと思ってた。『出口のない海』も…

続きを読む "『出口のない海』/横山秀夫"

| | コメント (2) | トラックバック (1)

2006/07/22

『人生の旅をゆく』/よしもとばなな

4140055006 人生の旅をゆく
よしもと ばなな
日本放送出版協会  2006-06

by G-Tools

 1997年~2006年の10年間に様々な媒体に掲載されたエッセイを収録したエッセイ集。主に旅をテーマにした”Ⅰ”、主に生活と働き方をテーマにした”Ⅱ”、そして生命や家族を主なテーマにした”Ⅲ”の3部構成。テーマはほんとうに多岐に渡るので全編を通した感想は書くのがすごく難しいのだけど、改めてパラパラッと捲ってみて感じるのは、「普通感じていても言葉にできていないような思いを、すごく丁寧にきちんと言葉にしてくれているなあ」ということ。例えば『命の叫び』の一節、「相手の不在とか、不親切を前提にして、自分が被害者であることを前提にして生きている人がたくさんいるような気がする」。これなんかは、今の世の中が何かおかしいどこかおかしいというその根本をバチリと言い当てていると思います。

続きを読む "『人生の旅をゆく』/よしもとばなな"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006/07/17

『海のふた』/よしもとばなな

4122046971 海のふた
よしもと ばなな
中央公論新社  2006-06

by G-Tools

 東京の美術短大を卒業してふるさとに戻りかき氷屋を始めたまりちゃんと、親戚の恐ろしい諍いに巻き込まれ弱ってしまったはじめちゃんの出会いと夏の思い出。本筋ではないことかも知れないけれど、凄く考えさせられたのは「資本主義について」というようなことでした。まりちゃんのふるさとは、他のいわゆる「地方」と同じく、うら寂れてしまっていて、それは「愛のないお金の使われ方をした」からだ、とまりちゃんは思う。いっぽう、はじめちゃんをとことん弱らせてしまったのは、資産家のおばあちゃんが亡くなって起きた相続争いというこちらも「お金」のせいだ。・・・

続きを読む "『海のふた』/よしもとばなな "

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006/06/06

『嫌われ松子の一生(上)(下)』/山田宗樹

4344405617 嫌われ松子の一生 (上)
山田 宗樹
幻冬舎  2004-08

by G-Tools
4344405625 嫌われ松子の一生 (下)
山田 宗樹
幻冬舎  2004-08

by G-Tools

 殺された伯母の松子の生涯を、甥の笙が追いかける。何故伯母は殺されなければならなかったのか。その疑問から追いかけた、存在すら知らなかった伯母の人生は、壮絶な転落人生。

 松子の人生自体は、TVドラマでよく使われそうな薄幸な人生ストーリーの詰め合わせと言ってもいいステレオタイプなもので、・・・

続きを読む "『嫌われ松子の一生(上)(下)』/山田宗樹"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006/05/04

『プラナリア』/山本文緒



プラナリアプラナリア
山本 文緒


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

 世の中は、繰り返しと決めつけで出来ている。目を逸らしたって逸らしきれないし、気づかないフリをしたってしきれるもんじゃない。だって誰もが繰り返しと決めつけに少なからず甘えて生きているから。自分のその甘えを棚に上げて繰り返しと決めつけの都合悪い気分悪いところに不平不満だけを言い出すようになったとき、この短編集の主人公のようなところに行き着いてしまうんじゃないかと思う。誰にでもその可能性は孕んでいると思う。

 繰り返しを繰り返しじゃないと思って日々を生きられるのは、・・・

続きを読む "『プラナリア』/山本文緒"

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2006/04/14

『イルカ』/よしもとばなな

イルカ イルカ
よしもと ばなな


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

 子供を生むことの「当たり前」の側面と、現代において子供を生むことの「新しい」側面とが両方出てくる。家族の形に注目して読むと、「新しい」家族の形が書かれている。新しいと言っても、昔からこういうのは普通にあったんだろうな、とキミコが言う通り、特別「新しい」形ではないんだと思う。未婚で妊娠し、相手の男性には内縁の妻がおり、相手の男性と結婚する訳ではないが認知はする。つまりどこにも結婚は存在しない。こういうのがどんどん普通になっていくのかな、なっていくんだろうな、と今まで漠然と思っていたので、・・・

続きを読む "『イルカ』/よしもとばなな"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006/03/22

『みずうみ』/よしもとばなな

みずうみ みずうみ
よしもと ばなな


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

 まず、どうも文章が堅い感じがした。読んでいてすんなり情感が頭に入ってこない。中島くんには何かあるのだろう・・・とは思いながら読み進めるんだけど、どうにも気持ちが追いかけていかない。

 いちばん引っかかったのは、・・・

続きを読む "『みずうみ』/よしもとばなな"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005/05/04

『キッチン』(吉本ばなな/角川文庫)

キッチン
吉本 ばなな

角川書店 1998-06
売り上げランキング : 6,881

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

続きを読む "『キッチン』(吉本ばなな/角川文庫)"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

『体は全部知っている』(吉本ばなな/文春文庫)

体は全部知っている
吉本 ばなな

文芸春秋 2002-12
売り上げランキング : 24,568

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

続きを読む "『体は全部知っている』(吉本ばなな/文春文庫)"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

『ハゴロモ』(よしもとばなな/新潮社)

ハゴロモ
よしもと ばなな

新潮社 2003-01-20
売り上げランキング : 34,091

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

続きを読む "『ハゴロモ』(よしもとばなな/新潮社)"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

『N・P』(吉本ばなな/角川文庫)

N・P
吉本 ばなな

角川書店 1992-11
売り上げランキング : 125,764

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

 正直、何を言っていいのか・・・。吉本ばななはお気に入りの作家の一人で、ほとんどの作品を読んでいる。読んでいたのは24,5歳くらいまでだから5年ほど前のことで、つまり5年間は作品を読んでいない。読んでいないまま、「好きな作家」「よかった小説」という印象を抱いていた。
 そして今回『N・P』を再読してみたけれど・・・当たり前かも知れないけど、これは「当時」おもしろかった小説、という感想がひとつある。異母兄弟や近親相姦やオカルトというテーマは、あの当時おもしろさを引き起こすテーマだった。再読だから新味を感じないのか、はたまた今では新味を感じないテーマだからなのか難しいとこだけど、たぶん世間一般の読者をそれほど強く惹きつけることのできる題材じゃないと思う。その分、「当時」おもしろかった小説、という感想になってしまう。
 もうひとつの感想は、なんというかえも言われぬ読後感がやっぱり残るということ。自分が最も好きな物語は、誰でも何度読み返しても何度も感動する と思うけど、『N・P』は心象の記憶にはっきり残っていたのと同じ感動をもう一度味わうことはなかった。けれど、感動ではないけれど不思議な読後感ー爽やかでもないし、明るいわけでもないし、前向きになれるわけでもないけれど、けして嫌な感じではない不思議な読後感は残ってる。
 小説は時代の気分を反映したいわゆる「はやりモノ」だという一方で、時代を超えて読み継がれる普遍の物語も確かに存在するわけで、その理由は「感動」にあると思ってたんだけど・・・本を読んで「よかったー」と言ってしまうその源を、「感動」って一個の言葉に括ってたのが間違いってことか。『N・P』は、人は思うがまま生きればいいという単純なことを静かにそれと気づかないように語りかけてくる。それと気づかないまま、不思議な読後感に漂ってる。そういうのもアリかと。

| | コメント (0) | トラックバック (0)