2014/02/11

『テトラポッドに札束を』/和佐大輔

会社の人に勧められて、わざわざ勧めてくれるくらいだから世間での会話の共通言語ではあるのだろうと思って読んでみましたが、結論としては読まなくてもいい本でした。私に残った興味は、著者は自身のビジネスの黎明期の収入に関して、確定申告をしているのかなということくらいでした。

このタイトルから連想する内容で、読んで得られると期待することは大きく2つあると思っていて、一つは超実践的なネットビジネスノウハウ、もう一つは半身不随という厳しいシチュエーションに置かれた方のタフなメンタリティ。だが、前者はそもそもそのノウハウで稼いでいるので本で公開されるはずもなく、後者に関しては文面は丁寧なんですが胸に迫ってくるものはあまりありませんでした。最もこれは個人差があることだと思います。

端的に言うと、彼が成功した要因の多くは先行者利得であって、彼のスタンスや精神性や向学心とはあまり関係がないと思います。もちろん、あの時代にインターネットに目をつけたこと、更にそのインターネットに目をつけるに至った理由が不慮の事故だったというところで、「不慮の事故にあってもそれを恨むのではなく現状を受け止めて前を向く」という教訓や、「インターネットといった先進的な技術を意欲的に取り組む」というスタンスを学ぶことはできますが、この手の教訓やスタンスを鮮烈に心のなかに印象付けるような文章にはなっていないと思いますし、こういった教訓やスタンスを身につけたいと思っている人は、本著を読む前にすでにこの教訓やスタンスは少なくとも頭のなかに入っていると思います。

タイトルはもちろん『アルジャーノンに花束を』にかけていて、かつ、敢えて「札束」とヒールな空気の表現を使いつつ実は自分を半身不随にしたテトラポッドに感謝をしているということを伝えている捻った構造なんだと思うのですが、花束が札束に変わっていた通り、金銭的な成功を伝える以外のものは私にはありませんでした。

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2010/12/23

『傭兵代理店』/渡辺裕之

4396333595 傭兵代理店 (祥伝社文庫)
渡辺 裕之
祥伝社  2007-06

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 昔から推理モノやサスペンスモノやSFモノは手を出さないので、読んでみたらと貸してくれる人がいるのはありがたいです。傭兵代理店というモノが日本に存在してるという突飛さ加減が目新しくて面白かったです。アクションものの映画を観ているよう。「傭兵」とはどういう存在なのかの知識を知れたのもよかった。
 海外モノだと、こういった突飛な話の中にも、核となるテーマは国際問題だったりするけど、日本モノだと、道具立てとしては出てくるけどどっちかっていうと主人公の心情に焦点があたることが多いとはよく言われている通りかな。

p199「恐怖を克服できると思うのは、間違いだ。それができると思う奴は早死する」
p254「疑惑というものは一旦意識すると、まるで意志を持っているかのように成長し、所有者を底知れぬ苦悩の渦に埋もれさせる」
p396「おまえたちは、ベトナム、アフガニスタン、イラクと介入を続け、世界中に紛争を蔓延させた。」
p454「ここで焦って動いた方が先に死ぬ」

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2005/05/04

『幸福な王子』(オスカー・ワイルド/新潮文庫)

幸福な王子―ワイルド童話全集
ワイルド

新潮社 1968-01
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 短い話ほどよい。長い話はとにかく全然読み進まない。たぶん、童話のモチーフが巷にもう溢れ返っていて知り過ぎていて、物語も文字だけを使った表現では刺激に乏しいから。文字だけを使った表現で、こういう普遍的なモチーフを描いて、そこに没頭できた時代に羨望。例えば『猟師とその魂』でも、アニメとかFlashとかで見せられたら、違う刺激が混ざるから読み(?)進められたかもしれない。

 刺激がおもしろさの源泉としたら、・・・

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『マクルーハン』(Written by W.Terrence Gordon Illustrated By Susan Willmarth/ちくま学芸文庫)

マクルーハン
W.テレンス ゴードン W.Terrence Gordon 宮澤 淳一

筑摩書房 2001-12
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 マスコミとか広告業界とかの人とか目指す人とかは、マクルーハンは必ず通るものだと思ってました。そうでもないんですか今時は?ケインズを知らない経済学生がいるようなもんですか?
 マクルーハンはメディアが人間の思考に与える影響を論じた学者だと思っていたが、まず何よりも彼のメディアの「定義」そのものに新しさがあった。以前からあった常識的・固定観念的な定義に対して、それをもとからなかったように扱えるほどの衝撃があったという意味で「再定義」とも言われる。そんな彼の定義とは、あらゆる「拡張」すべてがメディアだ、というものだ。服は皮膚の「拡張」、自動車は足の「拡張」。こうして拡張したメディアを更に拡張するメディアという関係と、何者も基盤としない単独のメディアという切り口が見えてくる。
 マクルーハンの書物をまともに読むのはとても時間が足りないし(ましてしがないサラリーマンの身じゃあ!)、さりとてありきたりな解説書ではマクルーハンが目指したカラーに触れられないし、そこへ持ってきて本書はマクルーハンっぽいカラーで作られた解説書としていい出来だと思う。「なんでも多面的に見よう」というマクルーハンの姿勢と主張はよく理解できるけど、やっぱり解説書だからかそれともマクルーハンの主張がそこまでなのか、多面的に見たからといってその先に希望があるのかないのか、なくて当たり前なのかが見えてこない。見えてこないことは構わないけど、なんとなく徒労感が残るのはなぜ?

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『インストール』(綿矢りさ/河出書房新社)

インストール
綿矢 りさ

河出書房新社 2001-11
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 女子高生で受験生の主人公が、学校に行くのがイヤになり、たまたま数日前に自分の壊れたパソコンをあげた同じマンションの小学生のウチで、 エロチャットでバイトをし始める、という物語。
 ストーリーテリングはとてもうまくて、読んでる時間を感じさせないんですが、まず違和感があったのは、主人公と行動を共にする小学生のセリフ。風俗嬢のメル友がいるこの小学生、めっちゃくちゃしっかりした口調で喋るんですが、どうしても浮いてる。確かに、子供の頃から携帯とかパソコンとか情報量の多い時代の子供って、ましてメールなんてざらのこのご時世、幼い頃から妙に大人びた口調というのはわかりやすい表現かも知れませんが、同じ画一的丁寧口調と言ってもあんなふうには喋らんだろうという違和感を抱いてしまいます。 どんな時代でも子供はその時代の大人の子供時代よりも圧倒的に大量の情報のもとで生きていくけれど、やっぱり子供ってわかる口調なんですよ。そういう口調に書かれてなかったね。
 それからもうひとつ、これは小説としては致命的かなと思うんですが、この主人公がどうしても作者のことのように読めて仕方がないんです。本当はどうかわからないし、主人公全然違ってエロチャットでもなんでもござれって人かも知れませんが、読んでる限りはそう思ってしまう。物語は最後、主人公も小学生も、現実と向き合う力を湧き上がらせようとして終わるんですが、その物語で語られるすべてが作者の意思というか意見で固められてるように感じるんです。それと対立する、作者の本意ではない意見を持つ筋も登場人物も出てこない。だからあんまり深みがない。文藝賞の選考委員も、主人公を作者のことと思って「かわいいなあエヘヘ」ってくらいで選考してるんじゃないの?
 私小説ってのもあるけどさ。

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